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~リューテンブルグ王国~

 ユナダス王国との件から1週間。

 あれから、無謀とも言える俺の満月龍討伐の旅が正式に決定した。

 バレス国王とも話し合った結果、当初の予定通りアンドロイドの件は白紙となり、無事リューテンブルグとユナダスの戦争は止められた。そして攻撃を続けていたドーナ王国の過激派組織との因縁にも終止符が打たれた様だ。

 白紙となったアンドロイドの件については、今回の俺の旅の成果によって今後を決めると言う事で両国が落ち着いた。

「――よし。じゃあ行くか」

 今日から俺とアンドロイドは旅に出る。目的は勿論満月龍。

「ちゃんと帰って来いよジン」
「迷子にならんようにの」

 フリーデン様とエド、それから昔の騎士団員の仲間達が見送りをしてくれているのだが、とても40歳のオヤジを見送る言葉とは思えねぇ。子供か俺は。

「こっちでも満月龍の情報が分かったら直ぐに連絡するからな」
「おう。頼むぜ」
「気をつけるんじゃぞジンフリー。それと、もしアンドロイドの調子が悪くなったら連絡をくれと、Dr.カガクが言っておった」
「分かりました」
「私は大丈夫デス。不具合が生じても自動回復プログラムで修正出来マス」

 相変わらずというか何というか。Dr.カガクの話だとこのアンドロイドは日に日に自ら学習してアップデート? とやらを繰り返していくらしい。そうすることで会話の内容や思考がより人間に近づいていくそうだ。その証拠に、ここ1週間俺は何故かアンドロイドと生活を共にしていたのだが、初めの頃より明らかに人間っぽくなってる(気がする)。

 無機質に発せられる声にもどこか“感情”みたいなものを感じる時もあったし。……って、それは俺の感覚が可笑しくなってきてるな。
 
「ドコから行くつもりデス?」
「それはまぁ……適当にだな」
「そんな無計画デハ一生満月龍に辿り着けマセンよ」
「ハハハ! 頼もしい相棒だな。ジンを頼むよアンドロイド」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇ。もう行くぞ」

 こうして、俺の満月龍討伐の旅が始まった。

「……とは言ったもののどーしようか」

 取り敢えず王国は出るけど、そこから一体何を目指して向かえばいいんだ?

 満月龍がいる場所なんて当然分からねぇし、目撃情報だってほぼ無いようなもの。早くも行き詰まったな。

「現状、ジンフリーが満月龍と遭遇スル確率は0.0000001%デス。もはや天文学的確率となってマスよ」
「余計やる気失せる情報だな。肝心の満月龍の居場所とか分からねぇのか?」
「それはデータに入っていマセンね。常に衛測魔力感知《ナノレーダー》で満月龍の魔力を探っていマスガまるで反応がありマセン」
「そのレーダーって何処までの範囲反応するの?」
「この星丸ごとデス」
「凄ぇな。って事はこの星にいないのか満月龍」
「それはアリ得マセン。星丸ごとと言っても、ナノレーダーが反応しない領域も多く存在しマスからネ」
「成程な……。じゃあそのレーダーが反応しない領域ってのを順に探せば、満月龍見つかるんじゃねぇか?」
「珍しく頭ガ冴えていマスね。でもジンフリーが思いつく程度の発想では解決に至りマセンよ。そんな事は私が既に調べていマス」

 ムカッ!
 何だコイツは。人を小馬鹿にしやがって。どこで覚えたそんな言葉。

「調べてるのに分からねぇなら俺と同じじゃねぇか!」
「断じて一緒にしないで下サイ。特定はマダ出来ていませんが、私は徐々に範囲を絞れてきていマス。確率が0.0000001%のアナタとは違いマス」
「じゃあお前の確率何%なんだよ!」
「今の私ハ1.94%あります」

 おいおい。
 それ自体は決して高い数字じゃないが俺より遥か上じゃねぇかよ。

「あ~面倒くせぇ。ちまちま確率なんて計算してられるか。0.0000001%だろうが99%だろうが見つけた者勝ちなんだよ。計算出来るからって見つからなきゃ意味ねぇ」
「知能指数ガ低い人は決まってそう言いマス」

 ムカッ!! ……いや、待て。アンドロイド相手にムキになってどうする俺。もう40のいい大人だろうが。

「お前が頭良いのは認めるよアンドロイド。だからこそ優秀なお前に聞く。時間が経てば満月龍の居場所を特定出来るって事か?」
「その質問は優秀ナ私ガ答えましょう。まず結論から言って、100%特定スル事は出来マセン。満月龍も動いていマスからネ。おおよその行動範囲は絞り込めたとシテも、遭遇確率は高くても50%が最高値デス」
「それって結構高くねぇか?」
「その感覚ハあくまで人それぞれデスが、そもそも何百年と満月龍の目撃情報事態が少ないのは、ナノレーダーに反応しナイ領域の中でも、更に人ガ立ち入る事の出来ない危険領域が8割以上指定されているからなのデス。危険領域はそこに辿り着く事だけでも命に関ワル場所。挙句に、辿り着いたカラと言ってそこに満月龍ガいるかドウカは全く別の話になりマスからネ」

 そう言う事か。そりゃ一概に確率が高いとは言い切れないな。危険領域はとても人間が暮らせる様な環境じゃない上に、危険な種族や野生のモンスターもいるって言うからな。昔1度だけ騎士団の任務で危険領域に行ったが確かにとんでもねぇ場所だったもんな。

「全く見当が付かないより希望はあるか。後はもう運任せ」
「シカモ見つけて終わりではナク、私達の目的は討伐になりマス。因みに、今満月龍に遭遇したら100%私達は敗北デス」
「……え?」
「私がアナタから受け取った満月龍の魔力。アレは計算上、満月龍本体の魔力値と比べたらホボ存在しないのと同じ数値デス。僅かな血液カラ採っただけナノで当然デスネ。それでも一般的ナ魔力値と比べれば桁ガ違いマスガ」
「え、待って。それじゃあ意味ないだろ……」
「安心シテ下サイ。その為にDr.カガクがこのナノループを作り上げたのデス。このナノループは取り込んだ魔力を循環しながらドンドン増幅させていくのデス。なので時間が経てば経つ程魔力は上昇していきマス」
「そりゃまた凄ぇな。じゃあその計算上では、本体の満月龍のと同じかそれ以上の魔力値にするにはどれだけ時間が必要なんだ?」
「いい質問デスね。満月龍と同じかソレ以上の魔力値になるまでは後3日デス」
「早ぇなおい」

 想定よりも早過ぎて思わずツッコんでしまった。

「なので満月龍と出会ウ事さえ出来れば“計算上”余裕で勝テマス。1ターンキルで」
「だからどこで覚えたんだよそんな言葉」

 アンドロイドの計算とやらがどこまで正確かは分からねぇが、満月龍を僅かでも倒せる可能性があるならかなり気が楽になった。一切油断は出来ないがな。もう後はなるようになるしかねぇ。

 俺とアンドロイドがそんな会話をしながら歩いていると、リューテンブルグでも有名な噴水広場に出た。

 ここで俺はふと気になっていた事をアンドロイドに言った。

「お前さ、今更だけど“名前”とかないのか? アンドロイドって長くて呼びづらいんだけど」
「ありマセン。必要デスか?」
「必要というか……呼びづらいよな」
「そうデスか。では私二名前を付けて下サイ」
「俺が?」
「ハイ」

 急にそんな事言われても……何気なく噴水を見た俺は、一瞬マリアとの思い出が頭を過った――。


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「――ジンは? 男の子か女の子かどっちがいいの?」
「んー、俺は別にどっちでもいいな。元気に生まれてくれりゃそれでよ」

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 ここは何十年も前に俺とマリアが出会った場所だっけな……。

 そんな事を思いながら、俺は無意識のうちに言葉を漏らしていた。

「……リフェル」
「ソレが名前デスね。分かりマシタ」
「あ、いや……。ってまぁいいか……。この場所の名前は“リフェル噴水広場”。急に言われても名前なんて思いつかないし、アンドロイドより全然呼びやすいからな……。よし、これからはお前の名前はリフェルだ」
「受け付けまショウ。私は今からリフェルと名乗りマス」

 こうして無事(?)名前も決まり、リューテンブルグ王国を後にした俺達はリフェルの提案により“ツインガーデン”へと向かった――。