「何じゃ……⁉」
玉座の間にいた者達が一斉に同じ方向を向いた。
突如割られた窓ガラス。床に飛び散ったガラスの破片が日差しによってキラキラと反射している。
「何事だッ⁉」
「フリーデン様をお守りしろ!」
「お城の方達は直ぐに避難して下さい!」
護衛の騎士団員達が即座にフリーデン様を守る様に囲った。騎士団員の指示で、家来の者達も戸惑いながら慌てて部屋から出て行く。
窓ガラスが割れてからここまで僅か数秒。
玉座の間が一瞬で異様な空気に包まれた直後、割られた窓ガラスから何者かが飛び込んできた。
「――ここで合ってるんだよな?」
黒髪の短髪に屈強な巨体。年齢は20代後半ぐらいだろうか。
鋭い目つきで顔や腕に複数の傷跡があり、手には長い槍を持っている。突如現れたその男はニヤリとこちらを見ながらそう呟いた。
「誰だ貴様!」
「動くんじゃないぞ!」
「大人しく両手を挙げ膝を付くんだ!」
騎士団員達は謎の男に忠告をしたが、男は我関せずと言わんばかりにゆっくりと歩き始めた。
「コラッ! 動くんじゃない!」
「止まれ! それ以上進めば容赦しないぞッ!」
「やってみろ――」
次の瞬間、男はその図体に反した素早い動きで騎士団員1人の背後に回り、槍を持った手とは反対の手で魔法を放った。
攻撃を受けた騎士団員は腹部の肉を抉られ、血飛沫と共に部屋の壁まで吹っ飛ばされた。
「きッ、貴様ッ……!」
「待て!止めろ!」
直ぐ近くにいたもう1人の騎士団員が男目掛けて持っていた剣を振り下ろした。
この謎の男の正体は分からないが強い――。
それを瞬時に感じ取ったエドも急いで騎士団員を止めようとしたが遅かった。
「雑魚は引っ込んでろ」
男は騎士団員の剣をいとも簡単に躱す。そして手にしていた槍を半回転させ、柄の部分を思い切り騎士団員の頭に振り下ろした。
――ズガァンッ!
「がっ……⁉」
脳天から攻撃を食らった騎士団員は、糸が切れた操り人形の如く床に崩れ落ちていった。
瞬く間に場が緊張に包まれ、互いに睨み合う静寂な時間が数秒流れた後、男が俺を見ながら徐に口を開いた。
「貴様がジンフリー・ドミナトルか……?」
「誰だお前」
この男に見覚えも無ければ目的も不明。
「グハハハ、思ってたよりオッサンじゃねぇか。こんな奴が本当に最強の剣士なのか?」
いきなり現れて行儀が悪い上にとんでもなく失礼な奴だ。多少腕に自信があるみたいだがそもそも何者だコイツ。しかもそれ以上に、“どうやって”此処に侵入してきやがった。
「お主、何が目的じゃ?」
「アンタがリューテンブルグのフリーデン国王か。お前達と“ユナダス”の関係なんて興味はないが、かなり割のいい仕事なんでね」
「ユナダスじゃと……⁉」
「ああそうだ。俺はバレス国王に雇われて満月龍の血を貰いに来たガンテツ! ややこしい事は知らねぇが、目的の満月龍の血は貴様の体内だろドミナトル! 貴様を奪って来いとの依頼だからな、高額報酬の為に大人しく来てもらうぜ!」
自らをガンテツと名乗ったこの男。色々と状況を整理したいがどうやらやる気満々らしい。何時でもかかって来いと言わんばかりに魔力を練り上げ威圧してきている。
「成程。事態は我々が思っていた以上に差し迫っている様ですねフリーデン様」
「どうやらその様じゃ……。余り受け入れたくはないがの」
「ブツブツと逃げる相談か? 必要ならば何人殺しても構わないらしい。邪魔する奴は容赦しねぇぞ」
そう言ったガンテツは更に魔力を高めながら近づいて来た。
「――報酬額はいくらだ? なぁおい」
「ジン……」
「エド、剣貸せ」
俺はエドから剣を借りた。
懐かしい感触だ。5年前に握った以来か。
「俺とやる気か? おいおい、全く覇気がねぇけど動けるのかオッサン。こんな奴が最強などと誰が言い出した!グハハハ! 笑わせるわ」
「言葉が理解出来ねぇとは何処まで馬鹿なんだお前」
「何ぃ?」
「俺に懸けられた報酬額はいくらだって聞いてんだよ」
「フッ、貴様がそんな事を知った所でどうする。こんな老いぼれを捕まえりゃ“2,000,000G”も貰えるんだからかなり楽な仕事だぜ!」
成程。2,000,000Gね。
報酬額を聞いた俺は無意識にエドの方を見た。すると案の定、奴の口元は少し緩んでいた。
そして俺には聞こえる。“ジン、お前滅茶苦茶見積り低いじゃん”と、俺を小馬鹿にしているお前の心の叫びがな!
「……」
「どうした? 急に黙り込んで怖気づいたか! まぁ良い判断だな。大人しくしていれば俺も手を出す手間が省けるってもんッ……⁉⁉」
気が付くと俺は魂力を練り上げていた。
「なッ……⁉ バ、バカな! 何だこの桁外れな“魔力量”はッ……⁉」
「2,000,000Gとは随分面白いボケだ。俺も40になってやっと分別が付く大人になったからよ、多少の冗談なら笑って見過ごしてやらぁ」
「どこがだよ」
エドが何か言った様に聞こえたが今はどうでもいい。
「だがな、2,000,000Gじゃ全然笑えねぇ。覚えとけ。例えその10倍の値だろうと、俺の指1本傷つけられないとな!」
ガンテツとの間合いを一気に詰めた俺は、そのまま奴目掛けて剣を振り下ろした――。
だが、その剣はガンテツを捉える事なく寸前の所で止まった。
何だ。いつの間にか気失ってるじゃねぇかコイツ。
俺は静かに剣を下ろした。
「あの男を拘束しろ!」
エドの指示により、騎士団員達はガンテツを拘束しそのまま連行して行く。
「急に慌ただしくなったな」
「実力は劣っていない様だなオッサン。剣を貸せって言った時は一瞬不安だったけどな」
「お前もオッサンだろ。それより……」
「ああ。一刻も早く対応しないとマズい」
「いや、それもそうなんだけどよ……その前にッ「フリーデン様! 事態は想像以上に深刻かと」
「そうじゃな。私は直ちにバレス国王と話をしよう。エドワードよ、何時でもユナダス王国に行ける様準備を進めてくれるか?」
「かしこまりました!」
「あのさ、ちょっと俺も聞いてもらいたい事がッ「それと研究所にいるDr.カガクにも連絡をするのじゃ。ジンフリーを奪いに来たとなれば、媒体となるアンドロイドも当然狙っておるだろう」
「はい。研究所の方は私にお任せ下さい! 直ぐに連絡を取り騎士団員と共に向かいます」
「宜しく頼む」
「おーい、だから俺の話を……「さっきから何だジン!」
俺の言葉にようやくエドが反応してきた。
急いでるのは分かるけどさ、別に話ぐらい聞いてくれもいいだろ。エドもフリーデン様もよ。
「いや、だからね、多分だけど、“使えた”わ」
「ん? 何が……?」
「魔力」
「魔力?」
「そう。魔力。満月龍の」
「「――⁉」」
ここまで言ってやっとエドも理解した様だ。さっきまで無視していたくせに、今では目ん玉が飛び出そうな程驚いた顔で俺を見ている。エド程ではないがフリーデン様もな。
「ジン! 本当か⁉」
「ああ多分。初めてだから分からないけど多分コレそうだわ。さっき無意識に魂力練り上げた時に何か出てきた」
「マジかよ……」
「あのガンテツって野郎も呟いていただろ? 何だこの魔力量は……って」
偶然の産物とはまさにこの事。あれだけ必死にやっても出せなかった魔力が急にポンっと出てきた。何故だかとっても清々しい気分。
事を把握したエドが再び慌ただし様子でフリーデン様に言った。
「フ、フリーデン様!今聞かれましたよね!」
「ああ。全くもって驚きの連続じゃ。この十数分でかなり寿命が縮まった気がするの……っと、そんな冗談はさておきジンフリーよ。本当に満月龍の魔力を出せたのか?」
「俺の感覚が間違ってなければそうですね」
「どうやら間違いではない様ですフリーデン様。ジンから確かに満月龍の魔力を感じます」
「そうかそうか。だとすれば予定通りアンドロイドにその魔力を蓄えるのじゃ。絶対に拒絶が起きないとも言い切れぬ。いつジンフリーの体に異変が起こっても可笑しくないからの。
それに、ユナダスが満月龍の力を狙っておると分かった今、アンドロイドに魔力を移せばジンフリーが無駄に襲われる心配も無くなるじゃろ」
「かしこまりました。それでは直ぐにジンと共に研究所へ向かいます!」
こうして、まだ事態が慌ただしい中俺とエドは研究所へと向かう事になった。
玉座の間にいた者達が一斉に同じ方向を向いた。
突如割られた窓ガラス。床に飛び散ったガラスの破片が日差しによってキラキラと反射している。
「何事だッ⁉」
「フリーデン様をお守りしろ!」
「お城の方達は直ぐに避難して下さい!」
護衛の騎士団員達が即座にフリーデン様を守る様に囲った。騎士団員の指示で、家来の者達も戸惑いながら慌てて部屋から出て行く。
窓ガラスが割れてからここまで僅か数秒。
玉座の間が一瞬で異様な空気に包まれた直後、割られた窓ガラスから何者かが飛び込んできた。
「――ここで合ってるんだよな?」
黒髪の短髪に屈強な巨体。年齢は20代後半ぐらいだろうか。
鋭い目つきで顔や腕に複数の傷跡があり、手には長い槍を持っている。突如現れたその男はニヤリとこちらを見ながらそう呟いた。
「誰だ貴様!」
「動くんじゃないぞ!」
「大人しく両手を挙げ膝を付くんだ!」
騎士団員達は謎の男に忠告をしたが、男は我関せずと言わんばかりにゆっくりと歩き始めた。
「コラッ! 動くんじゃない!」
「止まれ! それ以上進めば容赦しないぞッ!」
「やってみろ――」
次の瞬間、男はその図体に反した素早い動きで騎士団員1人の背後に回り、槍を持った手とは反対の手で魔法を放った。
攻撃を受けた騎士団員は腹部の肉を抉られ、血飛沫と共に部屋の壁まで吹っ飛ばされた。
「きッ、貴様ッ……!」
「待て!止めろ!」
直ぐ近くにいたもう1人の騎士団員が男目掛けて持っていた剣を振り下ろした。
この謎の男の正体は分からないが強い――。
それを瞬時に感じ取ったエドも急いで騎士団員を止めようとしたが遅かった。
「雑魚は引っ込んでろ」
男は騎士団員の剣をいとも簡単に躱す。そして手にしていた槍を半回転させ、柄の部分を思い切り騎士団員の頭に振り下ろした。
――ズガァンッ!
「がっ……⁉」
脳天から攻撃を食らった騎士団員は、糸が切れた操り人形の如く床に崩れ落ちていった。
瞬く間に場が緊張に包まれ、互いに睨み合う静寂な時間が数秒流れた後、男が俺を見ながら徐に口を開いた。
「貴様がジンフリー・ドミナトルか……?」
「誰だお前」
この男に見覚えも無ければ目的も不明。
「グハハハ、思ってたよりオッサンじゃねぇか。こんな奴が本当に最強の剣士なのか?」
いきなり現れて行儀が悪い上にとんでもなく失礼な奴だ。多少腕に自信があるみたいだがそもそも何者だコイツ。しかもそれ以上に、“どうやって”此処に侵入してきやがった。
「お主、何が目的じゃ?」
「アンタがリューテンブルグのフリーデン国王か。お前達と“ユナダス”の関係なんて興味はないが、かなり割のいい仕事なんでね」
「ユナダスじゃと……⁉」
「ああそうだ。俺はバレス国王に雇われて満月龍の血を貰いに来たガンテツ! ややこしい事は知らねぇが、目的の満月龍の血は貴様の体内だろドミナトル! 貴様を奪って来いとの依頼だからな、高額報酬の為に大人しく来てもらうぜ!」
自らをガンテツと名乗ったこの男。色々と状況を整理したいがどうやらやる気満々らしい。何時でもかかって来いと言わんばかりに魔力を練り上げ威圧してきている。
「成程。事態は我々が思っていた以上に差し迫っている様ですねフリーデン様」
「どうやらその様じゃ……。余り受け入れたくはないがの」
「ブツブツと逃げる相談か? 必要ならば何人殺しても構わないらしい。邪魔する奴は容赦しねぇぞ」
そう言ったガンテツは更に魔力を高めながら近づいて来た。
「――報酬額はいくらだ? なぁおい」
「ジン……」
「エド、剣貸せ」
俺はエドから剣を借りた。
懐かしい感触だ。5年前に握った以来か。
「俺とやる気か? おいおい、全く覇気がねぇけど動けるのかオッサン。こんな奴が最強などと誰が言い出した!グハハハ! 笑わせるわ」
「言葉が理解出来ねぇとは何処まで馬鹿なんだお前」
「何ぃ?」
「俺に懸けられた報酬額はいくらだって聞いてんだよ」
「フッ、貴様がそんな事を知った所でどうする。こんな老いぼれを捕まえりゃ“2,000,000G”も貰えるんだからかなり楽な仕事だぜ!」
成程。2,000,000Gね。
報酬額を聞いた俺は無意識にエドの方を見た。すると案の定、奴の口元は少し緩んでいた。
そして俺には聞こえる。“ジン、お前滅茶苦茶見積り低いじゃん”と、俺を小馬鹿にしているお前の心の叫びがな!
「……」
「どうした? 急に黙り込んで怖気づいたか! まぁ良い判断だな。大人しくしていれば俺も手を出す手間が省けるってもんッ……⁉⁉」
気が付くと俺は魂力を練り上げていた。
「なッ……⁉ バ、バカな! 何だこの桁外れな“魔力量”はッ……⁉」
「2,000,000Gとは随分面白いボケだ。俺も40になってやっと分別が付く大人になったからよ、多少の冗談なら笑って見過ごしてやらぁ」
「どこがだよ」
エドが何か言った様に聞こえたが今はどうでもいい。
「だがな、2,000,000Gじゃ全然笑えねぇ。覚えとけ。例えその10倍の値だろうと、俺の指1本傷つけられないとな!」
ガンテツとの間合いを一気に詰めた俺は、そのまま奴目掛けて剣を振り下ろした――。
だが、その剣はガンテツを捉える事なく寸前の所で止まった。
何だ。いつの間にか気失ってるじゃねぇかコイツ。
俺は静かに剣を下ろした。
「あの男を拘束しろ!」
エドの指示により、騎士団員達はガンテツを拘束しそのまま連行して行く。
「急に慌ただしくなったな」
「実力は劣っていない様だなオッサン。剣を貸せって言った時は一瞬不安だったけどな」
「お前もオッサンだろ。それより……」
「ああ。一刻も早く対応しないとマズい」
「いや、それもそうなんだけどよ……その前にッ「フリーデン様! 事態は想像以上に深刻かと」
「そうじゃな。私は直ちにバレス国王と話をしよう。エドワードよ、何時でもユナダス王国に行ける様準備を進めてくれるか?」
「かしこまりました!」
「あのさ、ちょっと俺も聞いてもらいたい事がッ「それと研究所にいるDr.カガクにも連絡をするのじゃ。ジンフリーを奪いに来たとなれば、媒体となるアンドロイドも当然狙っておるだろう」
「はい。研究所の方は私にお任せ下さい! 直ぐに連絡を取り騎士団員と共に向かいます」
「宜しく頼む」
「おーい、だから俺の話を……「さっきから何だジン!」
俺の言葉にようやくエドが反応してきた。
急いでるのは分かるけどさ、別に話ぐらい聞いてくれもいいだろ。エドもフリーデン様もよ。
「いや、だからね、多分だけど、“使えた”わ」
「ん? 何が……?」
「魔力」
「魔力?」
「そう。魔力。満月龍の」
「「――⁉」」
ここまで言ってやっとエドも理解した様だ。さっきまで無視していたくせに、今では目ん玉が飛び出そうな程驚いた顔で俺を見ている。エド程ではないがフリーデン様もな。
「ジン! 本当か⁉」
「ああ多分。初めてだから分からないけど多分コレそうだわ。さっき無意識に魂力練り上げた時に何か出てきた」
「マジかよ……」
「あのガンテツって野郎も呟いていただろ? 何だこの魔力量は……って」
偶然の産物とはまさにこの事。あれだけ必死にやっても出せなかった魔力が急にポンっと出てきた。何故だかとっても清々しい気分。
事を把握したエドが再び慌ただし様子でフリーデン様に言った。
「フ、フリーデン様!今聞かれましたよね!」
「ああ。全くもって驚きの連続じゃ。この十数分でかなり寿命が縮まった気がするの……っと、そんな冗談はさておきジンフリーよ。本当に満月龍の魔力を出せたのか?」
「俺の感覚が間違ってなければそうですね」
「どうやら間違いではない様ですフリーデン様。ジンから確かに満月龍の魔力を感じます」
「そうかそうか。だとすれば予定通りアンドロイドにその魔力を蓄えるのじゃ。絶対に拒絶が起きないとも言い切れぬ。いつジンフリーの体に異変が起こっても可笑しくないからの。
それに、ユナダスが満月龍の力を狙っておると分かった今、アンドロイドに魔力を移せばジンフリーが無駄に襲われる心配も無くなるじゃろ」
「かしこまりました。それでは直ぐにジンと共に研究所へ向かいます!」
こうして、まだ事態が慌ただしい中俺とエドは研究所へと向かう事になった。