ベラが隣でブルートと闘う中、エマは事前にハールから【複製】していた【毛髪】の魔法を自在に操るファルシュの相手をしていた。

「くっ……面倒だね!」

 エマは圧倒的な手数を誇る【毛髪】の魔法を、両刃の槍一本では凌ぎきれずにいた。

「魔技【爆破】!!」

 あまりのファルシュの猛攻に耐えきれず、目の前を爆発させ髪の毛を飛散させる。
 しかし、そんなエマに対してファルシュは魔技【飛髪】によって、黒髪を飛ばして来た。

「ぐっ……!」

 爆煙の中から突然現れた、硬質化した髪が身体中に刺さるエマ。
 思わず堪えるための声を上げた。

「僕はハールとは同じ戦場にいることが多いんですよ。なのでハールの【毛髪】の魔法は知り尽くしています。闘気に至ってはハールを上回っています。つまり――」

 爆煙が未だ周囲を包む中、ファルシュは自身の髪の毛を蛇のように緩やかに、そして速く伸ばし、エマの足元まで忍び寄らせていく。

「!!」

 それに気付いていなかったエマを髪の毛で捕らえ、やがて包み込んで空中へと持ち上げた。

「僕の力はオリジナルを超える」

 魔技【包髪】によって、球体状に毛髪の牢に閉じ込まれたエマ。
 なす術がない――そう思われた時、エマは自分ごと毛髪の牢内を爆発させた。

「何!?」

 牢を爆発させて、脱出されたことに驚くファルシュ。
 しかし、エマの自分をも巻き込んだ爆発のダメージは決して少なくなかった。
 爆煙に包まれたエマの赤いメイド服は所々焼け焦げ、自身の体からも煙を吹いている。

 エマは着地したと同時に、追撃されぬ様にファルシュと距離を取る。
 そして、エマはブルートと闘うベラと背中合わせとなった。

「どぉ? そっちはぁ?」

「……ウチの方は、ちと面倒だね」

「お互い相性が悪いかもねぇ」

 そして二人は悪態をつくのであった――。


*****


 ルーナはひたすらカニバルを切断するため、大剣を振るいまくる。

「ほっ、ほっ。おじさん、良い運動になるねぇ」

「くっ……!」

 しかし、カニバルはハットが飛ばないように抑えながら、ひょいひょいっと余裕をもって躱していた。

 ルーナの魔法【切断】も当たらなければ意味がない。
 さらに、カニバルはルーナのマナから嫌な雰囲気を感じており、手に持つノコギリで受け止める気配もなかった。

 ――既に感じる圧倒的実力差。
 それでも、カニバルはここで殺るしかない。
 次いつ対峙できるか分からない、ララの仇。

「……この差を埋めるには、切り札に頼るしかなさそうね」

「ん? 何て言ったんだい? おじさん、聞こえなかったよ」

 そう考え大剣を振るうのを止めたルーナは、一度カニバルと距離を取って大剣を地面に刺し込んだ。

「制限解除」

 ルーナの大剣の柄頭に埋め込まれた魔石が光り輝くと、大剣の握る部分を残し、柄から切り離される。
 傍目から見たらルーナは剣の握りであるグリップしか持っていない状態だ。

「おじさん、何だか嫌な予感がするよ」

 カニバルがそう言った矢先、もはや剣とは呼べない握りから先がない物を振るうルーナ。
 感覚的に察知したのか、カニバルは【瞬歩】を使って何かを躱す。

「!?」

 しかしカニバルは躱しきれず、被ったハットの切先をほんの少し切断された。
 いつも笑顔のカニバルは、その切れたハットから邪悪な目を覗かせ、真面目な顔となる。

「見えない剣……ね」

 カニバルのハットを切ったのは間違いなくルーナだ。
 しかし、ルーナが持つのは元は大剣だったグリップの部分だけで、普通であれば斬れるはずがない。

「『マナブレード』。私の親友が作ってくれた、私の切り札よ」

 カニバルのハットを斬ったのは、『マナブレード』。

 ルーナのマナで形成された刃は、ある程度感じ取ることが出来たとしても、ヒメナのような例外を除けば見ることは叶わない。
 更にはルーナの任意の長さに変えることもできる、ルーナの【切断】の魔法と相性が抜群のフローラが作った一品だ。

「あなたを冥土へと送るためのね!」

 ここでカニバルとの決着をつけるため、切り札をきったルーナは先程より勢いを増して、カニバルに迫るのであった。


*****


 ロランと皇帝ズィークは遠目から見ても異次元な闘いをしていた。
 【重力】の魔法とバルディッシュを操る皇帝ズィーク。
 【電気】の魔法とレイピアを操るロラン。

 その闘いは地形を変えるほど激しく、周囲を巻き込みながらも続けられている。

「惜しいな、その才。帝国に入れば次期皇帝へとなれたものを」

「第三皇子のルグレなんてどうですか? あいつが皇帝になればどうなるか、それはそれで面白そうだ」

 ロランとルグレは幼少期仲が良かった。
 と言っても、一方的にロランがルグレをからかう関係ではあったが。
 誰にでも純粋無垢なルグレに対して、ロランは悪い感情を抱いてなかった。

「アレはもう死んだ」

「それは残念。からかいがいがあって好きだったのになぁ。じゃあさっきの誰かも分からない皇子を殺したのは悪かったかな?」

 まるで悪びれた様子もなく微笑むロランに、ズィークは少なからず苛立ちを覚える。

「問題ない。跡継ぎはまだいくらでもおるわ」

 しかし、ズィークが皇帝である由縁か。
 少しも感情を見せることなく、懐の大きさだけを見せた。

「それはそれは、まだまだお元気そうで何よりです。きちんと僕が全員殺してあげますよ」

 そう言い放ったロランは【瞬歩】でズィークとの距離を詰め――。

「あなたを殺した後にね」

 魔技【雷突】を放つ。
 電気を帯びた神速のレイピアによる突き。

「そんな浅はかな希望が叶うと思うてか?」

 それを読んでいたのかズィークは、武器を持たない左手をロランの【雷突】に向けてかざす。

「!」

 ただそれだけで、ロランの雷突は下へと逸れて、大地を抉る。
 ロランの攻撃を【重力】の力で負荷をかけて逸らしたのだ。

「魔技【グラビティスラッシュ】」

 ロランが動じる隙を逃さず、バルディッシュで反撃するズィーク。
 ロランはその攻撃を、髪の毛を掠めるほどの所で躱した。

 ズィークの【グラビティスラッシュ】は、あまりの威力に大地をにヒビを作り、攻撃の余波で近くの瓦礫や人を吹き飛ばす。

「痺れるね」

 ズィークの強さを肌で感じたロランは、実に楽しそうに笑った。