王都の上空を黒い飛竜のセイブルの巨体に乗り、雨に打たれながらも戦況を眺めるレインとルシェルシュ。
 ヒメナが放った光線も当然見ていた。

「ルシェルシュ様……!! 今のは!?」

「さーてねー、何かの魔法じゃなーい? それよりさー、飛竜の数は減りつつあるねー。その代わり王都は壊せまくれてるけどねー」

 王都を襲う飛竜の数は倒され、百匹を切っている。
 しかし、肝心のアリアが出て来ない。

「もっと飛竜達を精密に操作できないのー? 例えば、歌姫を探して攫うとかさー」

「ワシの魔法【操作】は一体まで有効……操っているこのセイブルには可能ですじゃ。しかし、他の飛竜はリーダーであるセイブルに着いて来てるだけ故、単調なことしか命令できませぬ」

「ふーん、不便だねー。僕は他の四帝と違って、戦うのは専門外だからどうしたらいいかよく分からないしねー」

 ルシェルシュはアリアが捕えられなさそうな現状に面倒臭くなってきたのか、伸びをする。
 そして、そのままどこかを指差した。

「さっき一杯人があそこに移動してたから、とりあえずセイブルにあそこにブレス吐かせちゃおうよー。王城は歌姫がいるだろうから壊したくないし、王様もさすがにどっかに逃げちゃってるでしょー。王都をもっとめちゃくちゃにすれば、歌姫も自然と出てくるかもしれないしねー」

 ルシェルシュが指差した先は、本人の望みとは不本意なアリアとルーナがいる大教会。

「御意!!」

 黒竜のセイブルは大きく息を吸い込み体内のマナを練り上げ、黒いブレスを上空から大教会へと吐いた――。


 王都の端にある大教会。
 そこには巨大な黒い光線のようなブレスが放たれた。

「ぬおぉ!? 何であーるか、あれは!? 何か近づいて来るであーる!!」

 いち早く気付いたのは、大教会を飛竜から守っていた白犬騎士団長のアールだ。

「アリア! ここでじっとしてて!!」

 アールの動揺した声を聞いて窓から黒いブレスを確認したルーナは、アリアの元を離れて教会の外へと闘気を纏って急いで向かう。

「防御隊前に出るのであーる!!」

 近付いて来るブレスに対応するため防御隊を前に出そうと指示を出したアール。
 ルーナはそんなアールの肩を踏み、巨大な黒いブレスへと向かい――。

「魔技【一文字】」

 抜いた大剣でブレスを真っ二つに縦に両断した。
 二つに分かれたブレスは大教会を逸れて大地を削り、王都を囲う外壁を貫通していく。

「なんじゃとぉ!?」
「わーお」

 ブレスを両断され、驚くレインとルシェルシュ。
 ルーナの魔法【切断】に切れないモノはない。
 戦闘系の魔法において、強力無比であることは間違いなく、そういう意味ではルーナは天賦の才に恵まれたのだろう。

「そこの、白い従者!! 何するのであーる……って何であーるか、これは!?」

 自身の肩を踏み台にして跳んだルーナをアールが叱責しようするも、綺麗に教会を避けたように二つに分かれたブレスに抉られた地面と外壁を見て驚く。

「失礼しました、白犬騎士団長アール様。私は紫狼騎士団所属、冥土隊の隊長を務めるルーナと申します。緊急事態だったので、つい。申し訳ありません」

 大剣を地面に刺し、アールに敬意を称すように白いメイド服のスカートの裾を持ち上げ、一礼するルーナ。

「紫狼騎士団っ……!? いや、致し方あるまいのであーる! 其方のおかげで避難している国民達が助かったのであーる!!」

 あえてルーナが紫狼騎士団の名を出したのは、アールの性格を把握した上だ。
 予想通り、アールと揉めるという面倒は起きずに済んだ。

「……次も守りきれるとは限らないわね」

 次またあのブレスが大教会に向けられ、自分が少しでもミスを犯せば……いや、王都のどこに吐かれたとしても被害は甚大だ。
 まだ避難しきれていない国民だっている。

 黒竜セイブルからアリアと国民達を守るために動けずにいるルーナは、打倒セイブルを冥土隊の他の面々に頼るしかなかった――。


*****


 私達は上空から大教会に放たれたブレスを見て、戦慄していた。

 ポワン程とまではいかないけど、圧倒的な暴力。
 何故途中から二つに分かれたのかは分からないけど、強固な外壁も簡単に崩すようなとんでもない威力だった。

「たっはっはー! とんでもない威力だねーっ!!」

「あの黒竜をまず止めないと……またあのブレスが撃たれたら……」

 もっと王都に被害が出る。
 これ以上被害は出すわけにはいかないよ。
 どうにか……どうにかしないと……!!

「飛竜が群れをなしてるってこと自体が異常事態だから、とりあえず状況整理してみっかーっ!!」

【解析】

 フローラは自身の魔法具でありマナ銃を構え、アリアを襲った黒竜とそこらじゅうに跳んでいる飛竜の一匹に向けて、マナを放つ。
 黒竜も飛竜も害の無いモノと判断したのか、あっさりフローラのマナに当たった。

「どぉ? 何かわかったぁ?」

「あの黒竜は誰かに操作されてるみたいだねっ! んで、あの黒竜以外は操作はされてないみたいっ!!」

「つまりぃ……どういうことぉ?」

 ベラの問いにフローラ答えてくれたけど、良く分かんないや。

「他の飛竜は何かに操作されてるって訳じゃなくて、黒竜をリーダーと認識して着いてきてるって感じ! だから、リーダーの黒竜さえ倒せば帰ってくれるかもねっ!!」

 ほぇ~、なるほど。
 きっと黒竜を操作しているのは、レインとか名乗ったお爺ちゃんだ。
 王都を襲うために黒竜を操って、他の野良の魔物の飛竜も引き連れて来たってことか。

 だったら、あの黒竜さえ倒せば――この状況は打開できる!!

【闘気砲】

 そう思った私は、義手から【闘気砲】をルーナが左腕を切り落とした黒竜へと放つ。
 でも放った闘気の光線は、巨体とは言えど遠い上空にいる黒竜にはあっさりと躱された。

「ほえぇ……あんなに離れてたら当たらないよ……何とかあいつの足を止めるか近づけないと……」

 私の言葉に何かエマが思い付いたのか、フェデルタさんの方も向く。

「フェデルタさん、あんたの魔法【注目】だったよね? 確かさ」

 エマがフェデルタさんの魔法について話し出した。
 けど、何でまた急に……?

「ええ、そうですが」

「それって例えばだけどさ、フェデルタさんやウチらの方にあの黒竜を誘き寄せるってことは可能かい?」

「それは可能ですが、向こうに直接攻撃の意志が無い限りはこちらに誘き寄せられません。例えば、あの黒竜がブレスを吐くならブレスだけがこちらに放たれますし、爪などで直接攻撃する意志があればこちらに接近してくれるでしょう」

「全く……直接攻撃してくる様子はないし、面倒さね。あの飛ぶ黒竜を何とかしないと王都が全部破壊されちまうよ」

 フェデルタさんの魔法の話?
 【注目】って要は、こっちに攻撃をさせるってことかな……?

 ロランといた時の飛竜もあの黒竜も、ブレスを吐く時は無防備だった――だったら……。

「……あのさ、私に良い考えがあるんだけど」


 私はフェデルタさんに、思い付いた作戦を伝える――。


「……っ……そんなことをすればあなたと私は……!!」

「私を信じて、フェデルタさん。【闘気砲】の威力は見たでしょ? あの黒竜を倒して王都を守るにはその方法しかないよっ!」

 フェデルタさんは私の無謀とも言える作戦を聞き、思い悩む。
 当然だ。もし失敗したら私とフェデルタさんは死んじゃうんだから。

 だけど、こうして悩んでる間も王都にまたあのブレスを吐かれるかもしれないんだ。

「失敗したら……恨みますよ」

「よし、行こう! フェデルタさん!!」

「おい、どこ行くんだ!? お前ら!! あたいも連れてけ!!」

 作戦を了承したフェデルタさんと共に飛竜の群れを無視して、降りしきる雨の中王都の外に出るため走った――。
 何でかブレアも付いて来たけど。