「てめぇから来い!! 殺す気で来ねぇと殺しちまうぞ!!」

 両手を広げ、どこからでも来いと誘ってくるような構えをとるモルテさん。
 闘気も纏わず、魔法も使う気配がない……私、舐められてる?

 一年前にフリーエンが私は騎士団副団長クラスの闘気だって言ってたけど、今の私は闘気だけで言えば、もしかしたら騎士団長クラスはあるのかもしれない。

 腕試しの良い機会――殺す気で全力で闘う!!

 私は【瞬歩】で一瞬でモルテさんとの距離を詰める。

「お?」

 何か狙いがあるのか、目の前に突如現れた私に喜んだだけで、動く様子すらない。
 なら――。

【螺旋手】

 私はアッシュと闘った時のように、闘気を集中した一撃必殺の回転させた貫手、【螺旋手】をモルテさんの心臓に向かって打ち込んだ。

 アッシュは【瞬歩】でかわしてきたけど、どういう対応をするんだろう?

 その先を考え打ち込んだが――。

「ほぇ……?」

 結果は予想外のものだった。


「ごふっ……」


 私の左手はモルテさんの胸を貫き、返り血を浴びる。


「え……嘘……?」

 こんなに簡単に貫いてしまうとは思わなかった。
 相手は騎士団団長――こっちからしたら、試し打ちのつもりだったのに……まさか、殺しちゃうことになるなんて……。

 思わず、フラッシュバックのように思い出した。
 ルグレの胸を貫き、殺した――あの時を。

 私が震えながら貫手をモルテさんから抜くと、気づけば私の首の横にモルテさんの手刀が置いてあった。

「てめぇの負けだな。戦場だったら首刎ねてんぞ」

 ……ほぇ?
 気付けばモルテさんの胸の傷が完全に元通りとなってる……。
 私が【螺旋手】で貫いたはずなのに、どういうこと!?

「ぎゃははは!! 素っ頓狂な顔しやがって! 俺の魔法は【不死】! 俺が死ぬことはねぇ!! 安心して殺しやがれ!!」

 【不死】って……死なないってこと!?
 そんなの反則じゃん!!

「だから言ったろーが、殺す気で来いってよぉ!!」

 完治したモルテさんは闘気を纏い、戦闘は再開された――。


*****


「ふーん……なるほどね」

 ヒメナとモルテの一進一退の攻防を、ロランは興味深そうに眺める。
 隣にいるブレアは、ヒメナがモルテと同等に闘えていることに驚きつつも、模擬戦をさせているロランの思惑がわからなかった。

「おい、こりゃどういうつもりだよ?」

「君には関係のないことだよ」

 モルテにヒメナの模擬戦の相手をさせたのは、先のリユニオン攻防戦の際にヒメナの実力を目にしてなかったからだ。

 ヒメナの自然と足音を殺した歩き方などを見て、只者ではないと思ってはいたが、騎士団長を相手にどの程度通用するのか見てみたかったからである。

「一朝一夕では身に付かない洗練された闘技だ。魔法は使わないのかな? それとも、鳥頭みたいなタイプの魔法なのかな? ねぇ、何か知ってる?」

「……さぁ、知らねぇな!!」

「ふーん」

 ブレアはヒメナが魔法を持ってないことを知っているが、わざわざロランに弱みを握らせる訳はなく、嘘をつく。
 しかし、モルテが素手とはいえ同等に闘え、自身よりはるかに強いロランに興味を持たれるヒメナに、強さへのこだわりが強いブレアは――。

「あたいだって……!!」

 どこか嫉妬心を抱き始めていた。


*****


 私とモルテさんは素手による、殴り合いを繰り広げていた。

 もう三回は殺したはずだけど……何度怪我をさせても回復して、殺しても蘇るなんてアリ!?

 闘気の力強さ自体は同等に近いけど、闘技の差で僅かに力量は私が上回っているも、不死鳥のように蘇るモルテさんの闘い方に四苦八苦して苦戦をしいられていた。

 【不死】であるが故に死を恐れないし、【不死】を利用して反撃してくる。
 こんな魔法……闘い方があるんだ……!!

「おらおら、どうしたぁ!?」

 変わらず殴りに来るモルテさんは、自信があるのか弱みを見せない。
 だけど、私は【不死】の弱点を見つけていた。

 傷が回復したり蘇るたびに、モルテさんは体内のマナを消費している。
 つまり、蘇るといっても回数に制限があるはずだ。

 その回数分モルテさんを殺せば、モルテさんを倒せるということだろう……けど、かなりのマナを持っているため、おそらく数十回は殺さないとモルテさんは死なない。

「モルテさんの魔法……反則じゃない!?」

「ぎゃははは!! 良く言われんぜ!!」

 私は【断絶脚】でモルテさんの左腕を刎ねるも、蹴りをお腹に受けて吹き飛ばされる。

「……っ……!!」

 吹き飛ばされ、体制をととのえた私の喉物には、闘気を纏ったモルテさんの手刀があった。

「うっ……」

 戦場なら私は二回モルテさんに殺されてる。
 一度目は油断で、二度目は魔法があるかなしかの差で……。

「はい、そこまで」

 私とモルテさんの模擬戦を見ていたロランが拍手をしながら、戦闘を止めるために近づいて来た。

「おい、ロラン!! 何だこいつは!?」

 模擬戦を終えて、モルテさんは私を指差して怒り出す。
 私が……不甲斐なかったのかな?
 でも、全力で闘ったんだけど……。

「こんな面白いヤツ、どこで見っけたんだ!? 闘気も俺クラスで、色んな闘技をこんな器用に使えるヤツなんて王国にゃいねぇぞ!? 赤鳥騎士団によこせ!!」

「それは出来ませんね。モルテさんに借りはあっても貸しはありませんし」

 ほぇ?
 これって……モルテさんに褒められてる?
 ロランと私の取り合いしてら。

「それでモルテさんには借りを返して欲しいのですが、モルテさんが暇な時にこの子……ヒメナちゃんと模擬戦をして、鍛えてあげてくれませんか? 死なないモルテさん相手ならこの子も全力を出せるでしょうし」

「ロランてめぇ言ったな!? それで貸し借りなしだぞ!! むしろ俺にとってもありがてぇや! ウチには副団長のシャルジュ以外骨のあるヤツいやしねぇしな!! ぎゃははは!!」

 私の肩をバシバシと叩くモルテさんは、良い訓練相手が見つかったからか実に嬉しそうだ。

 私も騎士団団長のモルテさんに強さを認められて、これからも模擬戦ができるのは嬉しいけど……これはロランの提案だ、きっと何か狙いがあるんだろう。
 だけど、どうせ私に拒否権はないんだろうな。


*****


 訓練所を出ようとするロランを待ち受けていたブレア。

「おい、ロラン。ヒメナを鍛えようとるなんて何が狙いだ?」

 ブレアは迷うということが少ない。
 故に悩みそうな事案はすぐに解決しようとする。
 今回も例外ではなかった。

「さて、何でだろうねぇ」

「ちぇっ!! これだからお前の話すのは嫌いなんだ!!」

 思わしげなことを言うだけ言って、横を通り過ぎて去って行くロランに、ブレアは捨て台詞を吐いた。


 アリアを取り巻く環境下でヒメナが騎士団長に迫る程の強さを手に入れることは、ロランにとってメリットもデメリットもある。

 メリットは帝国側にアリアを殺されたり、奪われにくくなること。
 デメリットはアリアを連れて冥土隊と共に逃げられること。

「ヒメナちゃん。せいぜい頑張っておくれよ」

 しかし、そう呟いたロランにとってはデメリットというリスクは個人的な楽しみの一つなだけであった。