ボースハイト王国、王都クヴァ―ル。
 王都クヴァ―ルは城郭都市で、高い外壁に王都全体が守られている。

 私達が住んでいたアンファングが帝国に攻め落とされ、王国に宣戦布告されたことはすでに王都まで伝わっていた。
 別の街もカニバルに攻め落とされてたみたい。

 だから王都に入るための検問も凄く厳しくて、私達のことで少し揉めてたけど、ゴルドさんが何か渡して通してもらえた。
 あっさり通してもらえたけど、何渡したんだろう?

 壁の外から王都の中はあんまり見えなかったけど、中に入ると沢山の建物が建っていて、とても綺麗で栄えている。

「ほぇ〜! アリア、見てあそこ!! 露店がいっぱい!!」

「ホントだ! 人がいっぱいで凄いね、ヒメナ!」

 どこを見渡しても、建物と露店と人。
 大勢の人達が広い道を闊歩していた。
 初めて見る景色だ……こんな人が集まる所ってあるんだ。

「ちぇっ! ガキかよ!! テンション上がっても腹は膨れねーぞ!!」

 ブレアは花より団子みたい。
 だけど何かそわそわしてるから、やっぱり色々気になってるんだろう。
 素直じゃないなぁ。

「君達はここで降りるぶひよ。ベラはワシに付いてくるぶひ」

 あれ? 王都までの約束って聞いてたからここで降りるのは良いんだけど、ゴルドさんはベラをどこかに連れてく気?
 ゴルドさんはベラのことすっごい可愛がってたから、養子にしたいとかかな?

「ごめんなさいねぇ、ゴルド様。私もここで降りるわぁ」

「ぶひぃ!? ベラはワシの屋敷に来てワシの愛人になるぶひ! 豪華な食事も良い服もたくさんあるぶひ!! お前が付いてくると思って色々してやったぶひよ!!」

 養子じゃなくて愛人!?
 何言ってんの、この豚!!
 養子で幸せにしてくれるなら話は別だけど、そんなのは絶対許さないんだから!!

 私達がベラをゴルドから庇うより先に、エマがゴルドの手を弾きゴルドを睨む。
 怯むゴルドに、ベラはニッコリと微笑んだ。

「私達は一蓮托生なのぉ。ごめんなさいねぇ」

「ぶひぃ……ぶひぶひ!! ぶひぃ!!」

 いや、何言ってんだよ。
 怒ってるんだろうけどさ。
 豚が興奮してるようにしか見えないよ。

「ゴルド様。あんたにこんな所でウダウダやられると俺達も仕事を終えられん。おい、連れて行け」

 怒る豚を傭兵達が無理矢理羽交締めにして連れて行った。
 ゼルトナさん、また私達を庇ってくれたのかな?

「ここで別れだ」

 ゼルトナさん達は王都に着いたことで、ゴルドさん達の商売の道中の護衛だった仕事を終えた。

「ゼルトナさんはこれからどうするの?」

「これからアルプトラオム帝国と戦争になるからな。傭兵の俺達にとっては稼ぎ時だ」

 傭兵は戦場で闘うことが一番の仕事らしい。
 ゼルトナさん達はこのまま前線に行くみたいだ。

「ゼルトナさん、色々ありがとう!! またねーっ!!」

 手を振る私とアリアに、ゼルトナさんはそっけなく片手を上げて傭兵達と去っていった。

 ゼルトナさんは無愛想だけど、このキャラバンの中で唯一良い人だった。
 ゴルドも優しかったけど、さっきの様子だとベラを愛人にしたいがためだったんだろうしね。

 ゼルトナさんだけは私達を傭兵から責められた時庇ってくれたし、旅の道中に私とアリアの話しをたくさん聞いてくれたんだ。

「ゼルトナさん良い人だったね、ヒメナ」

「うんっ!」

 ゼルトナさん達と別れ、今後のことについて私達は話し合うことにした。
 開口一番ルーナが切り出す。

「王都に着いたのは良いけど……これからどうすればいいのかしら?」

 王国の中で一番安全な王都に着いたのはいいものの、私達には何のアテもない。
 とりあえず身の安全がある程度保証されるということで、王都に来たのだから。

「う~ん、一番良いのは孤児院とかに受け入れてもらうことだねっ!」

「その次は住み込みの仕事をもらうことかね。衣食住、全部揃うしね」

「後は、日雇いの仕事とかかしらぁ?」

「傭兵になるって手もあるぜ!! 帝国ぶっ倒して金貰えるなら最高だしな!!」

 フローラ、エマ、ベラ、ブレアがそれぞれ案を出してくれた。
 もちろん、ブレアの考えは論外だ。

「……子供の私達にそんなことできるの……? ……それが無理だったら……どうするの……? ……ホームレス……?」

 確かにメアリーの言う通りだよね。
 女でしかも子供な私達が出来ることなんて、限られてる。
 私達を働かせてくれる所なんてあるのかなぁ……。

「まっ、考えてても仕方がないないっ! どうにかなるっしょ!!」

 元気印のフローラの明るさは、今の私達にとって救いだ。

 きっとどうにかなる。
 そんな想いで私達は行動に移し始めた――。


*****


「ほえぇぇ!! 孤児院にも入れないし、雇って貰えるとこもないし、なんなら傭兵も無理だったじゃんっ! これからどうすんのよーっ!!」

 やっぱり、どうにもならなかった。
 これからどうしよう。