着いた遊園地は昔から憧れていた地元の遊園地だった。夢の中だからかもしれないけど、顔のわからない人たちが歩いている遊園地は少し不気味だ。失敗したかなと思ったけど、遠堂くんは気にせず私の手を引いてメリーゴーランドの前まで連れていく。

「どれがいい?」
「どれって言われても」

 円形のメリーゴーランドには馬だけじゃなく、シンデレラの馬車みたいなのもある。馬のイメージだったけど、馬車も可愛くて乗ってみたい。

 私の思考がまた形になってしまっていて、遠堂くんはにやりと笑ってから馬に跨がる。

「二週な!」
「えぇー!」
「乗りたかったくせに」

 遠堂くんの横の馬に跨がれば、上下に動きながら、視界がゆっくり回っていく。軽快なメロディーは本物か、私の想像か、わからない。でも、メリーゴーランドに合ってるオルゴールのような曲にワクワクしてくる。

「楽しい?」
「楽しい」
「連れてきてよかった」
「遠堂くんは何回も行ったことあるの?」
「まぁそこそこな」

 ぐるりと乗った時と同じ場所に戻ってきたかと思えば、遠堂くんが馬からひらりと降りる。かっこいい。夢の中なら運動神経が悪い私でもできるかも、と飛び降りれば、ピタリとうまく着地できた。

「次は、馬車な!」

 遠堂くんと馬車に乗り込めば、意外に狭く、太ももが密着してしまう。緊張で固まれば、遠堂くんは気にしてないらしい。

「本物の馬車もこんな狭いのかな、俺乗ったことないけど!」
「私もないよ、馬車なんて」
「次は何乗りたい?」
「遠堂くんは、何がおすすめ?」
「ジェットコースター乗れんの?」
「乗ったことないからわかんない!」
「じゃあ、ジェットコースター行こうぜ」

 ジェットコースターは、見上げるくらい大きくて、首が痛くなりそうだった。足はブラブラ揺れるし、逆さ吊りになるし、めちゃくちゃ怖い。高いところは大丈夫だと思ってたけど、逆さまになるのはすごい怖いことがわかった。

「ジェットコースターはもういい……」
「空中散歩は大丈夫なのに?」
「だって、空中散歩は逆さ吊りにならなかったじゃん!」
「たしかに、じゃあ、観覧車乗ろうぜ!」

 観覧車に二人で乗り込めば、向かい合わせに座る形になる。何度も見た遠堂くんの顔を直視できないのは、どうしてだろう。窓から遠くを眺めれば、遠堂くんが私の横に動いてくる。ガシャガシャと揺れて、先ほどのジェットコースターを思い出して、体がガチガチに固まった。

「動かないでよ、怖い!」
「あ、悪い」
「さっきの思い出しちゃった」
「悪い悪い、もう大丈夫だから」

 私の横に腰掛けて、窓の外を指でなぞる。

「あっちに学校」
「地図まで現実に忠実なの?」
「俺の記憶から再現してるから、多分だよ、多分」
「自信はないのね!」
「ないよ、ってか、俺に言えるんだったら、友達にもそうやって素直に言えばいいじゃん」

 遠堂くんには、夢の中で心が見えちゃうからだよ。とは言えずに、考えてみる。遠堂くんは、いつも私の言葉を待ってくれたから言えたんだよ。

 他の子達には……言えない。だって、一人になったら私どうしたらいいの? おかしい、とか思われたらどうしたらいいの?

「一人になったら俺といたらいいよ、大丈夫」
「また見た!」
「見えちゃうからしょうがないだろ。見られたくない時は言ってよ」

 頬を膨らませて非難すれば遠堂くんは、すまんすまんと手を合わせた。

「だって、気づいたら考えちゃうんだもん」
「それは、できる限り見ないようにします。だから、夢の中でくらい一緒に遊んでよ、ダメ?」
「いいよ、楽しいし」
「よかった」

 遠堂くんの「大丈夫」が胸の中で、何度も優しく膨らむ。だから、本当に大丈夫になってしまいそうだ。

「一個だけ、まずは、言ってみたらどう?」
「言ってみたらって何を」
「バナナ本当は好きじゃないの、とか? 自分の思ってること」

 それくらいなら……と思いつつ、頷きかける。でも、バナナチョコ毎朝貰ってるのに、変じゃない?

「まぁ、無理強いはしないけど」
「考えとく」
「おう」
「そろそろ、おはようの時間?」

 観覧車がゆっくりと地面に近づいて、空が明るみ始めてる。実際の時間がどうかはわからないけど、きっと朝が近づいてきている。もしかしたら、遠堂くんが起きようと思ったから、そうなってるのかもしれないけど。

「そうだね」

 胸の奥で「残念」と言う言葉が浮かんできたから、咄嗟に脳内で「あー」と声を出し続ける。

「めちゃくちゃ、あーが出てるんだけど、何考えたの」
「秘密」
「はいはい、いつか教えてな」
「うん、じゃあ、おはよう?」
「おはよう」

 楽しい時間はあっという間みたいで、私だけ夢の世界に取り残される。少し寂しいなと、もうちょっとお話ししていたかったなが宙に浮いて、パラパラもこぼれ落ちていく。

 コーヒーカップも一緒に乗ってみたかったし、遠堂くんがやりたいことも一緒にやりたかった。またチャンスはあると思うし、学校に行けば会えるのに。

 行かないで、起きないで、って言いたくなった。

 偽物の友達が目の前に現れて、いつだったかしていた話をリピートする。

「離れたくないなとか、誰かに取られたくないなとか、会いたいなって思ってる時が、悲しいけど一番恋してるなって思う」
「わかる! バイバイする時が一番寂しいけど、きゅんっと胸が痛む感じが、こう、あぁー恋してる! ってなる」
「付き合ってからも楽しいけどね」

 友達が楽しそうに語る姿を見ながら、私はそうなんだなと感情をインプットして、わかるわかると頷いた。あぁ、そういうことか。私は、遠堂くんが好きになってしまったんだ。

 優しくて、私のために嘘まで吐いてくれる遠堂くんが。