参道を逆に進む。行きはヨイヨイ、帰りは波に逆らって思うように体が前に進めない。
と、クラスメイトの赤縁眼鏡の女子と鉢合わせた。彼女はニヒルな笑みを唇にたたえ、私と彼を交互に見やる。彼と視線が合うや、咄嗟に眼鏡を外し、折りたたんで右手に包み込むと軽く会釈したので、彼も同じく微笑みながら首を折った。ゴムまりのように弾みながら行動する小柄な私とは正反対で、長身で長めの手足をゆったりと動かす仕種が何とも優雅だ。優等生ゆえに教師からの覚えめでたく、素顔は幾分勝気だけれどなかなかの美形との評判で、男子たちの人気もまずまずといったところだ。私は少し不得手なタイプなのだけれど。平たく言ってしまえば、『いけ好かねえ』ヤツだ。彼女は擦れ違いざま私を鋭い目つきで一瞥して去って行った。
「同級生?」
「ええ、彼女、素敵でしょ? スタイルも抜群だし、美人だし……羨ましいなあ、“あの人”に比べると、私なんてほんと、チビで平凡ね……」
思わず本音が出た。彼が彼女に心を奪われはしまいか、と不安が胸を切り裂く。
「そんなこと……」
「慰めてくれなくてもいいのよ。事実だもの」
私は彼を遮って自嘲するように顔を歪めた。
「僕は、好きだよ。君みたいなタイプ」
一瞬、全身の神経にピリピリと稲妻が走った。顔面が引きつり、うつむいたまま神経は動作を拒絶する。
恐々と彼に視線を向けた。彼は唯々微笑みかけるだけで、自分が放った言葉の重大さを理解していないようだ。
「ゴメン……気に障るようなこと言ったかな?」
強張った顔面のまま凝視し続けたものだから、私が立腹したのだと彼は勘違いしたようだ。
「ち、違うの! へへへ……」
強引に顔の筋肉を緩めにかかる。ヒクヒクと頬が波打つ。
「参道の真ん中を開けてくださーい!」
いきなりの叫び声の方向を皆が一斉に向いたために、人の流れが滞り出し、遂には静止してしまった。すると、前方から段々と道の両端へと凪いだ波は切り裂かれ始めた。丁度、船が波を起こしながら進むように、七夕の行列は参道中央を本殿へと舵を切る。
私の体は波に飲み込まれ、身動きすら叶わぬまま、参道の端へと追いやられてしまった。咄嗟に彼の姿をさがした。が、あろうことか、彼は反対側の端へと遠ざかって行く。見失うまい、と必死に目を彼に固定し続ける。
と、クラスメイトの赤縁眼鏡の女子と鉢合わせた。彼女はニヒルな笑みを唇にたたえ、私と彼を交互に見やる。彼と視線が合うや、咄嗟に眼鏡を外し、折りたたんで右手に包み込むと軽く会釈したので、彼も同じく微笑みながら首を折った。ゴムまりのように弾みながら行動する小柄な私とは正反対で、長身で長めの手足をゆったりと動かす仕種が何とも優雅だ。優等生ゆえに教師からの覚えめでたく、素顔は幾分勝気だけれどなかなかの美形との評判で、男子たちの人気もまずまずといったところだ。私は少し不得手なタイプなのだけれど。平たく言ってしまえば、『いけ好かねえ』ヤツだ。彼女は擦れ違いざま私を鋭い目つきで一瞥して去って行った。
「同級生?」
「ええ、彼女、素敵でしょ? スタイルも抜群だし、美人だし……羨ましいなあ、“あの人”に比べると、私なんてほんと、チビで平凡ね……」
思わず本音が出た。彼が彼女に心を奪われはしまいか、と不安が胸を切り裂く。
「そんなこと……」
「慰めてくれなくてもいいのよ。事実だもの」
私は彼を遮って自嘲するように顔を歪めた。
「僕は、好きだよ。君みたいなタイプ」
一瞬、全身の神経にピリピリと稲妻が走った。顔面が引きつり、うつむいたまま神経は動作を拒絶する。
恐々と彼に視線を向けた。彼は唯々微笑みかけるだけで、自分が放った言葉の重大さを理解していないようだ。
「ゴメン……気に障るようなこと言ったかな?」
強張った顔面のまま凝視し続けたものだから、私が立腹したのだと彼は勘違いしたようだ。
「ち、違うの! へへへ……」
強引に顔の筋肉を緩めにかかる。ヒクヒクと頬が波打つ。
「参道の真ん中を開けてくださーい!」
いきなりの叫び声の方向を皆が一斉に向いたために、人の流れが滞り出し、遂には静止してしまった。すると、前方から段々と道の両端へと凪いだ波は切り裂かれ始めた。丁度、船が波を起こしながら進むように、七夕の行列は参道中央を本殿へと舵を切る。
私の体は波に飲み込まれ、身動きすら叶わぬまま、参道の端へと追いやられてしまった。咄嗟に彼の姿をさがした。が、あろうことか、彼は反対側の端へと遠ざかって行く。見失うまい、と必死に目を彼に固定し続ける。