廊下で行き交う生徒たちに見られてはコソコソ言われながらも、5分ほどして保健室に着いた。
「ほら、着いたし時間にも余裕あったでしょ?着いてきて全然平気だったね」
そうドヤ顔の様な表情をしている彼女は、我先にとスライド式である保健室の扉を開けた。
「杉下先生、こんにちは」
「こんにちは、どうかしたの?」
保健室の奥から聞こえる声に反応して、この女子生徒は僕の腕を掴んで杉下先生なる人に僕の顔を見せた。容姿からしておそらく20台半ばの若い先生だった。先生からの人気もありそうだな。
「大変、どうしたのその顔」
僕の考えとは裏腹に真剣な顔をして問いかけてくる。
当然僕の答えは、
「えっと、階段から転げ落ちまして……」
である。膝蹴りを喰らってこうなりましたなんて言ったら大事になってしまう。
「階段から落ちて顔だけそんな大怪我なんてことないでしょ、いいからこっちに来なさい」
「はい……」
やや見抜かれている様にも捉えられるが、急かされて僕は言われるがままに杉下先生の元へ。
顔、特に鼻血を見てもらう。
2分経たないぐらいの時間見てもらい、
「医者に行きなさい、血管が切れてるかもしれないから。先生方には私から言っておくから」
ということで、医者に行かないといけないらしい。
確かに、出血が始まってから15分は経過していると思うが出血の勢いは変わらない。
一般的に15分程過ぎても止まらない場合は受診をする方が良いとされている。
まぁ、現状の勢いも見ると先生が言う通り本当に血管が切れている可能性もある。
「わかりました、早退することにします。お騒がせしました。」
「全然良いのそんなこと気にしないで、これが私の仕事だから。それより、親御さんには連絡取れそう?」
そう、優しい瞳を向けつつも心配している様な表情を向けてくる杉下先生に
「電話をかけてみます、無理そうだったら歩いて行きます」
と伝える。
しかし、僕の親は現在一人。所謂片親状態でありシングルファザーと世間一般では呼ばれている家庭である。忙しいであろう父親の負担になるのは望ましくない。
「最悪、私が連れて行くから安心してね」
そう言ったのは杉下先生、ではなく後ろに立っている女子生徒。
「いや、なんでまだいるんですか」
「だって心配なんだもん」
そう言って不服そうな顔をする彼女。
多分あれだ、面倒見が良いとかじゃなくてこれはきっとサボりたいだけなんだと思う。
きっとそうだ。
「授業サボるなら仮病とか使って保健室で休むのはどうですか?」
「待って待って、別にサボろうとか思ってないよ?!」
慌てる彼女と、僕のやりとりを見てか杉下先生は笑って
「早く姫乃さんは授業に戻りなさい、折角主席で入ったのに他の子達に置いていかれるわよ」
なんて言う。
「しゅ、首席?この子が?」
と、続けて言ってみる。
言われて思い出したが、隣のクラスだと知っていたのも入学式当日に全校生徒の前で新入生挨拶をするために登壇していた生徒だったからだと思う。
総合するなら、頭脳明晰、内面も素晴らしい生徒、と言ったところだろうか。
「そうですね、私はこれで失礼します。」
そう言う姫乃さん、と言うこの生徒は律儀にも杉下先生へお辞儀を。
そして、
「お大事にね」
と僕にも会釈をして去っていった。
なんとも首席らしい、模範的過ぎる生徒だ。
しばらくして、連絡をとったふり、をした僕は杉下先生へ父親が来れない旨を伝え。
結局早退させてもらうことにした。
下駄箱で靴を履き替えていると、
《キーンコーンカーンコーン・キーンコーンカーンコーン》
と天井に埋め込まれているスピーカーから昼休み終了を知らせるチャイムが鳴る。
慌てて外から走って戻ってくる生徒を横目に、逆走するかのように僕は学校の校門を潜り出た。
♢ ♢ ♢
早退した僕は結局、病院には行くことはなかった。
正確に述べるなら、道中鼻血が止まってしまった故いく必要がなくなってしまったのである。
とはいえ、仮に行かなかったことが杉下先生や姫乃さんにバレれば面倒臭いことになる。
まぁ、適当に誤魔化せばいいか。
慎也達に鼻血。姫乃さんと来てこの早退。
「流石に今日は疲れた気がする」
改めて思い返せば、今日起きたことだけでも父さんにバレれば大騒ぎになってしまう。
まぁ、日常的に慎也から受けていることを知ればもっと大事になりそうだけど。
そう考えているうちに僕は家の近くまで来ていた。
時刻は14時過ぎ、早退していなければ未だ確実に学校にいる頃だ。
家に父さんがいればきっと心配されるか怒られるだろう。
「なんて言おうかな」
緊張しながらも歩き続け、気付けば家の前まで僕の足は歩みを進めていた。
しかし、この緊張も杞憂に終わった。
父さんの車が無かったことから父さんの不在がわかったからである。
すぐ家に入り施錠を行い、階段を上り自室へと向かう。
カバンはベッドへと放り投げ、椅子に座り机に倒れ込む。
「はぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ〜……」
長いため息が出てしまった。
桜乱高校に入学して早半年。
既にクラスでは世間一般でいう「イジメ」の対象と化してしまった僕にとって学校はどう転んでも退屈な場所となっている。
その理由が、
「友達が、ほしい」
そう、友達である。
友達さえいれば、一緒に登校。一緒にご飯。
一緒に勉強に、一緒に帰宅。
極めつけは同じ部活に所属するなんてこともあるかもしれない。
もう、それは『青春』である。
そんな僕にとって、イジメの対象になることはそこまで苦じゃない。
理由は二つ。
一つは暴力を向けられても対応できる点にある。
そして二つ目。
それは、友達がいないからである。
もし、友達がいる場合。僕が虐められれば僕は孤立する。又は、友達が二次被害に遭う恐れがあるのだ。それは友達として決して容認できない。
つまり、友達の欲しい僕にとって。
イジメのターゲットになっている点で既に僕、龍野藍は詰んでいた。
というか、虐められてなくても友達いないから孤立してるんだけどね。
まぁ、別に?いいんだけどね??いいんだけど。
「じゅる」
鼻水出てるだけで別に泣いてないもん平気だもん。
「あー、やーめよ。考えるのはもう辞め」
そう言って僕は自室を後にした。
部屋を出て階段を下り、再び一階へ。
リビングにあるテレビの電源を入れ、適当にお菓子を取り出しソファーに腰掛ける。
『こちら、中継です。昨晩、ここでは再びドラヴァリンによって建物が壊されるなどの被害があったそうです。ご覧ください、かなり多くの建物が被害に遭われているようです。そしてこの建物を壊して行ったドラヴァリン。なんと未だ行方不明ということで、現在捜索隊が編成され捜索に当たっているようです。以上、中継でした。』
被害を報告しているリポーターの向こうはリポーターの言う通り。
かなり建物が壊されるなどして人が住めそうな状態では無かった。
「ドラヴァリン、ね……」
ドラヴァリン、政府も呼びにくい名称をつけたものだ。
そしてここ数日はニュース番組で必ず一度はドラヴァリン関連のことが報道されている。
その為か、最近はドラヴァリン関連の事件が多くなってきた様に感じる。
一般的に知られているドラヴァリンの情報の中に、人間が生み出した建物等の硬いものを回収して巣を作る例も報告されている、と言うものがある。
今回のニュースで報道されているこの一件もその例が該当している可能性があるのではないか。
なんて、考えてみるが正直関係のないことだ。
「さて、ご飯食べ損ねてたし食べよっかな」
流石に空腹が襲ってきたため、僕はビニールに入っている開封されただけのサンドイッチを取り出して食べ始めるのだった。
「ほら、着いたし時間にも余裕あったでしょ?着いてきて全然平気だったね」
そうドヤ顔の様な表情をしている彼女は、我先にとスライド式である保健室の扉を開けた。
「杉下先生、こんにちは」
「こんにちは、どうかしたの?」
保健室の奥から聞こえる声に反応して、この女子生徒は僕の腕を掴んで杉下先生なる人に僕の顔を見せた。容姿からしておそらく20台半ばの若い先生だった。先生からの人気もありそうだな。
「大変、どうしたのその顔」
僕の考えとは裏腹に真剣な顔をして問いかけてくる。
当然僕の答えは、
「えっと、階段から転げ落ちまして……」
である。膝蹴りを喰らってこうなりましたなんて言ったら大事になってしまう。
「階段から落ちて顔だけそんな大怪我なんてことないでしょ、いいからこっちに来なさい」
「はい……」
やや見抜かれている様にも捉えられるが、急かされて僕は言われるがままに杉下先生の元へ。
顔、特に鼻血を見てもらう。
2分経たないぐらいの時間見てもらい、
「医者に行きなさい、血管が切れてるかもしれないから。先生方には私から言っておくから」
ということで、医者に行かないといけないらしい。
確かに、出血が始まってから15分は経過していると思うが出血の勢いは変わらない。
一般的に15分程過ぎても止まらない場合は受診をする方が良いとされている。
まぁ、現状の勢いも見ると先生が言う通り本当に血管が切れている可能性もある。
「わかりました、早退することにします。お騒がせしました。」
「全然良いのそんなこと気にしないで、これが私の仕事だから。それより、親御さんには連絡取れそう?」
そう、優しい瞳を向けつつも心配している様な表情を向けてくる杉下先生に
「電話をかけてみます、無理そうだったら歩いて行きます」
と伝える。
しかし、僕の親は現在一人。所謂片親状態でありシングルファザーと世間一般では呼ばれている家庭である。忙しいであろう父親の負担になるのは望ましくない。
「最悪、私が連れて行くから安心してね」
そう言ったのは杉下先生、ではなく後ろに立っている女子生徒。
「いや、なんでまだいるんですか」
「だって心配なんだもん」
そう言って不服そうな顔をする彼女。
多分あれだ、面倒見が良いとかじゃなくてこれはきっとサボりたいだけなんだと思う。
きっとそうだ。
「授業サボるなら仮病とか使って保健室で休むのはどうですか?」
「待って待って、別にサボろうとか思ってないよ?!」
慌てる彼女と、僕のやりとりを見てか杉下先生は笑って
「早く姫乃さんは授業に戻りなさい、折角主席で入ったのに他の子達に置いていかれるわよ」
なんて言う。
「しゅ、首席?この子が?」
と、続けて言ってみる。
言われて思い出したが、隣のクラスだと知っていたのも入学式当日に全校生徒の前で新入生挨拶をするために登壇していた生徒だったからだと思う。
総合するなら、頭脳明晰、内面も素晴らしい生徒、と言ったところだろうか。
「そうですね、私はこれで失礼します。」
そう言う姫乃さん、と言うこの生徒は律儀にも杉下先生へお辞儀を。
そして、
「お大事にね」
と僕にも会釈をして去っていった。
なんとも首席らしい、模範的過ぎる生徒だ。
しばらくして、連絡をとったふり、をした僕は杉下先生へ父親が来れない旨を伝え。
結局早退させてもらうことにした。
下駄箱で靴を履き替えていると、
《キーンコーンカーンコーン・キーンコーンカーンコーン》
と天井に埋め込まれているスピーカーから昼休み終了を知らせるチャイムが鳴る。
慌てて外から走って戻ってくる生徒を横目に、逆走するかのように僕は学校の校門を潜り出た。
♢ ♢ ♢
早退した僕は結局、病院には行くことはなかった。
正確に述べるなら、道中鼻血が止まってしまった故いく必要がなくなってしまったのである。
とはいえ、仮に行かなかったことが杉下先生や姫乃さんにバレれば面倒臭いことになる。
まぁ、適当に誤魔化せばいいか。
慎也達に鼻血。姫乃さんと来てこの早退。
「流石に今日は疲れた気がする」
改めて思い返せば、今日起きたことだけでも父さんにバレれば大騒ぎになってしまう。
まぁ、日常的に慎也から受けていることを知ればもっと大事になりそうだけど。
そう考えているうちに僕は家の近くまで来ていた。
時刻は14時過ぎ、早退していなければ未だ確実に学校にいる頃だ。
家に父さんがいればきっと心配されるか怒られるだろう。
「なんて言おうかな」
緊張しながらも歩き続け、気付けば家の前まで僕の足は歩みを進めていた。
しかし、この緊張も杞憂に終わった。
父さんの車が無かったことから父さんの不在がわかったからである。
すぐ家に入り施錠を行い、階段を上り自室へと向かう。
カバンはベッドへと放り投げ、椅子に座り机に倒れ込む。
「はぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ〜……」
長いため息が出てしまった。
桜乱高校に入学して早半年。
既にクラスでは世間一般でいう「イジメ」の対象と化してしまった僕にとって学校はどう転んでも退屈な場所となっている。
その理由が、
「友達が、ほしい」
そう、友達である。
友達さえいれば、一緒に登校。一緒にご飯。
一緒に勉強に、一緒に帰宅。
極めつけは同じ部活に所属するなんてこともあるかもしれない。
もう、それは『青春』である。
そんな僕にとって、イジメの対象になることはそこまで苦じゃない。
理由は二つ。
一つは暴力を向けられても対応できる点にある。
そして二つ目。
それは、友達がいないからである。
もし、友達がいる場合。僕が虐められれば僕は孤立する。又は、友達が二次被害に遭う恐れがあるのだ。それは友達として決して容認できない。
つまり、友達の欲しい僕にとって。
イジメのターゲットになっている点で既に僕、龍野藍は詰んでいた。
というか、虐められてなくても友達いないから孤立してるんだけどね。
まぁ、別に?いいんだけどね??いいんだけど。
「じゅる」
鼻水出てるだけで別に泣いてないもん平気だもん。
「あー、やーめよ。考えるのはもう辞め」
そう言って僕は自室を後にした。
部屋を出て階段を下り、再び一階へ。
リビングにあるテレビの電源を入れ、適当にお菓子を取り出しソファーに腰掛ける。
『こちら、中継です。昨晩、ここでは再びドラヴァリンによって建物が壊されるなどの被害があったそうです。ご覧ください、かなり多くの建物が被害に遭われているようです。そしてこの建物を壊して行ったドラヴァリン。なんと未だ行方不明ということで、現在捜索隊が編成され捜索に当たっているようです。以上、中継でした。』
被害を報告しているリポーターの向こうはリポーターの言う通り。
かなり建物が壊されるなどして人が住めそうな状態では無かった。
「ドラヴァリン、ね……」
ドラヴァリン、政府も呼びにくい名称をつけたものだ。
そしてここ数日はニュース番組で必ず一度はドラヴァリン関連のことが報道されている。
その為か、最近はドラヴァリン関連の事件が多くなってきた様に感じる。
一般的に知られているドラヴァリンの情報の中に、人間が生み出した建物等の硬いものを回収して巣を作る例も報告されている、と言うものがある。
今回のニュースで報道されているこの一件もその例が該当している可能性があるのではないか。
なんて、考えてみるが正直関係のないことだ。
「さて、ご飯食べ損ねてたし食べよっかな」
流石に空腹が襲ってきたため、僕はビニールに入っている開封されただけのサンドイッチを取り出して食べ始めるのだった。