拘束した後、車に乗せて持ち帰った"それ"は、俺の部屋に運ばれた。



ベッドに横たわる"それ"をふと見る。



先程気づいたのだが、噂のような"黒い仮面"は着けていない。



何故そのような噂が流れていたのだろうか?



そこで、何か強烈な違和感を覚えた。



顔に傷のついたコイツは、なんと言うか、、、



「可愛い、、、?」



か、可愛いだと?コイツが?



秘書の篠山に言おうものなら精神科病院に連れていかれそうだ。だが、、、



自分の思考にギョッとしつつも、真偽を確かめるべく観察する。



緩く巻かれたロングヘア。僅かな胸の膨らみ。緩やかなカーブを描いた女性的なフォルム。



女、だ。



俺が最も苦手とする生物の1つ。



幼い頃から男に貢がせて生活費を得ているケバい母親としつこく媚を売ってくる下心丸出しの女どもに囲まれて育ったからなのか、女を見ると吐き気がする。



仕事のために女を利用することはよくあるが、決して自ら近づきたくはない。



だが、コイツは、、、



吐き気がするどころか、もはや愛しさが湧き上がってくる。



そんなことを考えていると、眠りが浅くなったのか微かに寝言が聞こえた。



「や、めて、、、お願い、許して、、」



この瞬間、俺の心は彼女の物となった。



なにがコイツにこんなことを言わせているのかは知らないが、俺だったら必ずコイツを幸せにしてやれる。



いつか、その声で「玲夜」と呼ばれたい。



コイツの全てを知りたい。



俺に全てを捧げさせたい。



コイツの目に俺だけを映したい。



そんな俺らしくない考えが頭をよぎる。



気づけば俺は彼女の美しい唇に口づけていた。



俺にとって初めてのそれは、とても柔らかく、温かい。



なぜか心地良くて、更にキスを深めてしまう。



彼女となら、どんな深い闇にだって堕ちて行きたい。



どこまでも深い闇の中、彼女と身を闇色に染めて。



いつの日か、その口から俺への愛をくれ。



こんな状況でこんな事を思う俺は少しばかり狂っているのかも知れない。



ただ、薄暗い部屋の中でぼんやりと見える彼女は、艶やかで。



この世の物とは思えない程、美しかった。



やがて彼女は目を覚まして、俺に殴りかかって来ようとした。



だが、まだ腕に力が入らないらしい。



見事に空振ったパンチを繰り出す彼女は、もはや愛くるしい。



名前を聞いても思い出せず悶々としている姿を見ていると、イジメたくなってくるのは俺だけなのか。



あまりの可愛らしさに我慢出来ず、押し倒してしまう。



ベッドに押し倒されて目が潤んでいる彼女は、何故か抵抗しなくて。



勘違いしそうになった。



"お前は俺のことを愛してくれるか?"



今まで口に出したことない、いや、出せなかった言葉が喉まで出かかった。



だが、口に出してはいけない。



分かりきった返答を聞き入れるほど俺は愚かではない。



だからせめて、お前を想うことだけは許してくれ、、、。