仕事が落ち着いてきた12月、僕は心に決めていた。
今日のデートは電車に乗って街へでかける。

ガタンゴトン

風早が近づいたところで、外の景色を見る。霧が出ている。
「大好きです、結婚してください」
「ありがとう、わたしもあなたと結婚したかった」

あれから八年。今日、僕は一人で電車に乗っている。
中国の蘇州にある工場へ三年間の赴任が決定したのだ。
二人で色々と悩んだが、地元の小学校に通っている息子の海霧(かいむ)のためにも、単身赴任にすることにした。

風早駅に近づく。
窓の外を見る。
海霧がいっぱいだ。彼女が泣いているのだろうか。
自然と涙がこぼれる。

「我が故に 『芋』嘆くらし 風早の 浦の沖辺に 霧たなびけり」

小声でそうつぶやいた。

僕達はもっといい夫婦になれる。
千年以上の時を超えて、遣新羅使と「芋」が引き合わせてくれた二人だから。