「いつも同じ席に座っていますね」
かわいらしい声が聞こえた。声の方向に目を移すと、セーラー服を着たさつまいもがいる。
女性・・・なのか・・・。
「はい。大体いつも同じ席にすわっています。海が見える席が好きなので」
「そうなんですか」
女性(そもそも芋なのだが)と話すのが苦手な僕に、彼女はたたみかけて質問してくる。
「このあたりの海きれいですよね。私、古典が好きで万葉集の・・・」
「あ、遣新羅使の! 僕もあれが好きです」
「ええ!?本当ですか。同じ歌が好きな人、はじめて出会いました」
それから、その芋と意気投合してしまい、なぜこの歌が好きなのか、どうして好きになったのかなどを話した。こんなに心地よい感覚ははじめてだ。

「なかなかに気の合う芋だ。これが人間なら・・・」

「まもなく竹原~竹原~」
車内アナウンスが流れる。
もう降りなければならない。
「じゃ、また」
と軽く挨拶をして、降りようとした。
「あ、これ私の連絡先です」
手渡されたのはポテトチップスだった。

「それにしても、芋ばかりだ」

電車を降りても、あちらを見てもこちらを見ても芋ばかりだ。
芋の世界にでも迷い込んでしまったのか。
いや、これは夢なのか。

一度目をつむって、大きく深呼吸をしてみる。
そして、目をゆっくり開けてみる。

すると・・・いつも通りの世界に戻っている。
もう芋はいない。人間だけだ。
「いままでのは何だったんだ、あ、そう言えば連絡先は・・・」
と思って手元をみる。
「あ、そう言えばさっき食べてしまった」