それから毎日、通学中は風早の海から目が離せなくなった。あの歌と同じように霧が出ている日は、胸が締め付けられるような想いがする。
「あの後、彼はもう一度『妹(いも)』に会えたのだろうか」
「もう一度会えたら『いも』との愛はもっと深まったのかな」
海を見ると主人公と『いも』の事ばかりを考えてしまう。
僕はこう見えても、勉強は割とまじめにやる方だ。
試験前は睡眠時間を削って勉強している。
今日は月曜日。あと三日で試験がはじまるので勉強に力が入ってきた。
電車の中でも音楽を聴きながら勉強をしている。
「もうすぐ風早だ・・・」
僕は音楽を止め、車窓からの景色に目を落とす。
今日は霧が一段と深い。
「あいつ、今日も『いも』を泣かせてるな」
そう思って、目を閉じた。
そして目を開けると・・・
「あれ?」
何か電車の中の景色に違和感がある。
「あれ、芋だらけだ」
そこには芋しかない、いや、芋の世界が広がっていた。
椅子に座っているのは芋だ。
外の景色を見ると歩いているのも、車を運転しているのも芋だ。
少し落ち着いて見てみると、芋にもいろんな種類があり、さつまいも、じゃがいも、山いもなどの定番の芋のほかに、高級な自然薯もいる。皆ご丁寧に人間と同じような服を着ている。人間と同じように会話をしている。普通に日本語を使っているようだ。里芋は声や着ている服からすると八十代くらいのおばあさんのようだった。