エイエヌ氏は、とある国を支配する王族の一員だ。王族だから身分的には一般人と比べ物にならない。さらに、成人男子であるエイエヌ氏には、王になる資格がある。だが、王位継承権は低い。王位継承のためには後ろ盾となる母親の実家の力が重要なのだが、エイエヌ氏の母は有力な氏族の出身ではないのである。それでも王になるチャンスはゼロではない……が、そのためには彼より王位継承権の序列が高い皇太子の全滅が必要である。少なくとも百人の皇太子が死なねばならない。一夫多妻制の国なので、王族の数がやたらと多く、王位継承者が百人以上いるせいだ。
 そんな王家なので、王族全員に豊かな生活が約束されているわけではない。支給される生活費だけでは贅沢が出来ないのである。エイエヌ氏は音楽の才能があり、シンガーソングライターとして活躍していた。絶世の美男子だったので女性ファンが多かった。高貴な身分の姫君たちからも愛された。そのせいでスキャンダルが起きた。国王のハーレムに入る予定の美姫との恋愛が噂になったのだ。
 国王に睨まれたエイエヌ氏は地方へ逃れた。そこでも醜聞を引き起こす。神に仕える聖女と一夜を共にしたのである。
「指一本触ってない」と主張するも、信じてもらえない。禁忌を犯したエイエヌ氏の立場は極めて危険なものとなった。
 エイエヌ氏の窮地を救ったのは、その芸術の才能だった。「勉強は全然していないが詩才はある」と有識者に認められた才能を惜しむ声が上がり、収監を免れたのである。
 ただし都は勿論、王国内に留まるのは許されなかった。国王の命令で東洋の島国に大使として向かうことになった。東下りと人々は言ったが、実質的には島流しだった。
 東洋の島国に到着したエイエヌ氏は故国を懐かしく思いつつ、その国でもエンターテイナーの才能を存分に発揮し、人気者となった。彼の歌った楽曲「スカイツリー」は大ヒットとなり、その歌の中に登場した業平橋の近くにある駅は駅名が「業平橋駅」から「スカイツリー駅」に変わったほどである。