みんなと分かれて帰りの電車が出発した瞬間、私は大変な事に気がついた。
 お守りがない。

 ライブハウスの見学にはいつも通学に使っているバッグを持って行ったのだが、結びつけていたはずのビーズ飾りのストラップがなくなっている。

 どうしよう……!

 どこかで落としたのかもしれない。
 待ち合わせに到着した時にはちゃんと付いていたはず。じゃあライブハウスの中で落とした?
 誰かが拾ってくれてるかもしれないし、月曜に学校に行ったら聞いてみようかな。

 あれだけは、絶対に諦められない。私にとっては何よりも大切なものだ。
 私は、不安な気持ちを押し隠すようにバッグを胸に抱えて、落ち着かない帰り道を急いだ。

 ★
 
 そんな私の様子を反対側のホームから見ていた人物が二人居た。

「藍吾、萌奈が木屋と浮気してるってのは本当なのか」
「僕は噂で聞いただけだからなあ。噂は噂だよ。鵜呑みにしちゃいけないと思うけど」
「火のないところに煙は立たぬって言葉もあるじゃねえか」
「ねえ小瀬……頼むから短気を起こしちゃいけないよ。よく言うだろ、嫉妬は緑の目をしたモンスターだって。一度足を取られたらあっという間に飲み込まれるんだ。冷静に判断するのが大事だよ。自分の目で見たことだけ信じるべきだ」
「……ああ。分かってるよ」
「自暴自棄にならないでね。でも、どんなことがあっても僕は君の味方だから。それを忘れないで」
「なんか悪いな、弱音吐いちまって」
「お安い御用さ。友達なんだから」

 そんな会話も、通り過ぎる電車の音にかき消されていく。
 私は久郎君と藍吾君の間で交わされたそんな会話を知るはずもなく、不安な気持ちのまま夜を過ごした。