「小瀬っち、お父さん相手にそんな熱く語ったの?! めちゃくちゃウケる」
「……うるせえ」
面談での出来事を話したら、久郎君とお父さんのやりとりが木屋君のツボにハマったらしい。爆笑しながら久郎君の肩をバシバシと叩いている。
帰り道、駅へと続く住宅街の途中にある公園に私たちは居た。お父さんには悪いけど一人で帰ってもらうとして、私は約束通りいつものメンバーで帰宅することにした。
つまり、久郎君と同じ軽音部の木屋翔、飯井藍吾と、中学からの私の友人である江間真理亜を合わせた五人。真理亜は一年ほど前から藍吾君と付き合っていて、冷静で頭の良い藍吾君と面倒見の良い真理亜は私から見てもなかなかお似合いのカップルだ。
私たちは部活や掃除当番なんかの都合で変動しつつも、いつも放課後はこの公園で暗くなるまで話し込んでいることが多い。
恥ずかしくて口に出したことはないけど、私はこの時間が人生で一番青春っぽいな、なんて思っている。
「でもまあ、伊豆出さんが小瀬に良い影響を与えた事は確かだよね、実際。小瀬が昔のままだったらきっと今頃は軽音部潰れてたよ」
「校外のライブだって許可おりなかっただろうしね」
藍吾君の言葉に、真理亜も藍吾君が背中に提げた楽器にチラリと目を向けて引き継いだ。
夏休みに入ったら、軽音部の有志で近くのライブハウスを借りてライブを開催することになっている。確かに、昔の久郎君が校外で活動なんて、先生たちが全力で止めようとしてきたに違いない。
「準備は順調?」私が尋ねると、久郎君は小さく微笑んで頷いた。滑り台のてっぺんに腰掛け、夕焼けを背景に頬杖をつく久郎君の横顔はすごく絵になるので、つい見とれてしまう。
「おう。木屋が張り切り過ぎて予定より遥かに早くチラシも完成したし、あとは練習あるのみ」
「いやいや、俺らの初ライブよ?! そりゃ張り切っちゃうっしょ。 ……あっ、やべえ今日金曜日?! 俺バイトじゃん! ごめん先行くわ。幸せな君たちはごゆっくりー!」
木屋君がおどけてぴょんぴょん跳ねながら嵐のような勢いで私たちの前を通過したので、思わず二人で笑ってしまう。振り返ると、ベンチに座る藍吾君と真理亜も同じように笑っていた。
藍吾君と真理亜の繋がれた手には、これまで培った月日の尊さを感じる。私と久郎君も、こんな風に寄り添って歩ける関係になりたいな……なんて。
好き勝手に妄想を膨らませていたら、藍吾君がふと顔を上げた。心を読まれたような気がしてどきりとしたけれど、藍吾君の視線は私を通り過ぎて久郎君へ注がれていた。
「そういえばさ、小瀬が生徒会長に推薦されるって話はどうなったわけ」
「ああ、それな……」久郎君は難しい顔をしている。
「断りてえんだけど、なんかもう担任はじめ先生たちに外堀埋められてるって感じなんだよな」
「せっかくだし、やってみればいいじゃない」真理亜が明るく言う。
「俺はやりたくねえよ。生徒会なんて入ったら、部活にもなかなか顔出せなくなるし」
「部長と兼任は出来ないの?」
私がそう尋ねたのは、少し前に久郎君が軽音部の次期部長になる予定だと聞いていたからだ。
「無理だろうな。まあ、そうなったら部長は木屋にやらせるか」
「張り切りそうだね、木屋なら」藍吾君が苦笑した。
「なあ萌奈はどう思う?」突然、久郎君が私の目を見たのでどきんと心臓が跳ねた。
「うーん、推薦して貰えてるってことは、きっと久郎君なら期待に応えられるって思われてるんだよ」
久郎君はわしゃわしゃと自分の頭を掻きむしり「萌奈にそう言われると、そんな気がしちまう」と笑った。
「いずれにせよ、改めて今後の方針について検討する必要があるね」
私には、そう呟いた藍吾君の目がいつになく真剣だったのが気になった。私の視線に気づいたのか、藍吾君はぽんと手を打って立ち上がる。
「でも、まずはライブだ。まだまだやるべきことはたくさんあるんだから」
「おう、藍吾の言う通りだ」
真理亜もそれに続いた。
「でもまあ、あんた達もよくもここまで更生したね。一年前の今頃はこんな状況、想像もしてなかった」
真理亜の言う通りだ。
一年前、私たちの出会いは最悪だったのだから。
「……うるせえ」
面談での出来事を話したら、久郎君とお父さんのやりとりが木屋君のツボにハマったらしい。爆笑しながら久郎君の肩をバシバシと叩いている。
帰り道、駅へと続く住宅街の途中にある公園に私たちは居た。お父さんには悪いけど一人で帰ってもらうとして、私は約束通りいつものメンバーで帰宅することにした。
つまり、久郎君と同じ軽音部の木屋翔、飯井藍吾と、中学からの私の友人である江間真理亜を合わせた五人。真理亜は一年ほど前から藍吾君と付き合っていて、冷静で頭の良い藍吾君と面倒見の良い真理亜は私から見てもなかなかお似合いのカップルだ。
私たちは部活や掃除当番なんかの都合で変動しつつも、いつも放課後はこの公園で暗くなるまで話し込んでいることが多い。
恥ずかしくて口に出したことはないけど、私はこの時間が人生で一番青春っぽいな、なんて思っている。
「でもまあ、伊豆出さんが小瀬に良い影響を与えた事は確かだよね、実際。小瀬が昔のままだったらきっと今頃は軽音部潰れてたよ」
「校外のライブだって許可おりなかっただろうしね」
藍吾君の言葉に、真理亜も藍吾君が背中に提げた楽器にチラリと目を向けて引き継いだ。
夏休みに入ったら、軽音部の有志で近くのライブハウスを借りてライブを開催することになっている。確かに、昔の久郎君が校外で活動なんて、先生たちが全力で止めようとしてきたに違いない。
「準備は順調?」私が尋ねると、久郎君は小さく微笑んで頷いた。滑り台のてっぺんに腰掛け、夕焼けを背景に頬杖をつく久郎君の横顔はすごく絵になるので、つい見とれてしまう。
「おう。木屋が張り切り過ぎて予定より遥かに早くチラシも完成したし、あとは練習あるのみ」
「いやいや、俺らの初ライブよ?! そりゃ張り切っちゃうっしょ。 ……あっ、やべえ今日金曜日?! 俺バイトじゃん! ごめん先行くわ。幸せな君たちはごゆっくりー!」
木屋君がおどけてぴょんぴょん跳ねながら嵐のような勢いで私たちの前を通過したので、思わず二人で笑ってしまう。振り返ると、ベンチに座る藍吾君と真理亜も同じように笑っていた。
藍吾君と真理亜の繋がれた手には、これまで培った月日の尊さを感じる。私と久郎君も、こんな風に寄り添って歩ける関係になりたいな……なんて。
好き勝手に妄想を膨らませていたら、藍吾君がふと顔を上げた。心を読まれたような気がしてどきりとしたけれど、藍吾君の視線は私を通り過ぎて久郎君へ注がれていた。
「そういえばさ、小瀬が生徒会長に推薦されるって話はどうなったわけ」
「ああ、それな……」久郎君は難しい顔をしている。
「断りてえんだけど、なんかもう担任はじめ先生たちに外堀埋められてるって感じなんだよな」
「せっかくだし、やってみればいいじゃない」真理亜が明るく言う。
「俺はやりたくねえよ。生徒会なんて入ったら、部活にもなかなか顔出せなくなるし」
「部長と兼任は出来ないの?」
私がそう尋ねたのは、少し前に久郎君が軽音部の次期部長になる予定だと聞いていたからだ。
「無理だろうな。まあ、そうなったら部長は木屋にやらせるか」
「張り切りそうだね、木屋なら」藍吾君が苦笑した。
「なあ萌奈はどう思う?」突然、久郎君が私の目を見たのでどきんと心臓が跳ねた。
「うーん、推薦して貰えてるってことは、きっと久郎君なら期待に応えられるって思われてるんだよ」
久郎君はわしゃわしゃと自分の頭を掻きむしり「萌奈にそう言われると、そんな気がしちまう」と笑った。
「いずれにせよ、改めて今後の方針について検討する必要があるね」
私には、そう呟いた藍吾君の目がいつになく真剣だったのが気になった。私の視線に気づいたのか、藍吾君はぽんと手を打って立ち上がる。
「でも、まずはライブだ。まだまだやるべきことはたくさんあるんだから」
「おう、藍吾の言う通りだ」
真理亜もそれに続いた。
「でもまあ、あんた達もよくもここまで更生したね。一年前の今頃はこんな状況、想像もしてなかった」
真理亜の言う通りだ。
一年前、私たちの出会いは最悪だったのだから。