「ビアンカ・ローズサファイア公爵令嬢」
「何よ、まだあるの?だいたいね、あなたひとつ勘違いを……」

「私は君へ婚約破棄すると告げた」
「そうね。それは覚えているけれど、そもそもね、私たち……」

「君が受け入れるかどうかの答えを聞いていない」
「いや、だから!その前に私たち……」

「ビアンカちゃん……ぼくもだ……!」
「ヴィンセントまで……アンタもそうだけど……」

「ぼくもです!」
「え?あなた誰だったかしら。色々ありすぎて名前が飛んだのだけど」

「み、ミシェル・アゲートです!」
「あぁー、そうだったわね。そうだった」

『ビアンカ・ローズサファイア公爵令嬢との婚約を破棄する……!』
そんな声揃えて合唱されても困るんだけど。

「いや、ちょっと待ってくれ。お兄さまの飛びっきりかわいい妹のビアンカが、婚約……っ!?そんなのお兄さまが認めない~~~~っ!」
面倒くさいのが復活しちゃったが……ある意味チャンスね……?

「そもそも私、誰とも婚約しておりません!!」
国内随一のお嬢さまですけど……!お兄さまがこんなんでお父さまもお母さまも過保護なので全く誰とも婚約に至ってないのだけど……!

「え?ビアンカ?俺とは?俺とは一緒に添い遂げるっていったじゃない。たとえゾンビになっても不死王になってビアンカと一生アンデットと添い遂げるって……」
「いやそれは聞いていないんですけどおおぉぉぉっ!?」
病んでて危険そうだとは認識してたけど遂に妄想にまで滾ってるうぅぅ~~~~っ!

「そんな……ビアンカが……他の男と……添い遂げ……あぁぁぁぁぁぁっ!嫌だあぁぁぁぁあ――――――――っ!」
取り敢えずお兄さまがやかましいのだが完全に信じきって不安定になってるんだが……!?あとおにいと添い遂げる気は全くないから!そして早く結婚しろシスコンめ!!

「と、とにかく、私はお歌い殿下とヴィンセントと……そこの人とは婚約しておりません!」
「ミシェルですけどぉっ!!」
そんなこと言われたって、あなた完全にポッと出じゃないの。こんなこゆい日に覚えろと言われても……言動が全体的に失礼すぎるし。

「そうだよ。ビアンカは俺のお嫁さんだもんね!」
「あー、はいはい分かったから」
この病み狂人はちょっと置いておかないと話が進まんっ!!

「だからそもそも破棄と仰られても破棄されるものがありませんし、断罪されるいわれもありません。現にアマリリスちゃん殺害は真犯人が明らかになったわけです……!」

「そうですよ!ビアンカさまはいつだって私の味方で、助けてくれて、今もこうして……ベラドンナたちから解放してくれた恩人なんです……!」
「アマリリスちゃん……っ!」

「だから、ビアンカさまを断罪するなんて、私、絶対に許せません!」

『ぐはぁっ!!』
前世的に言うと……攻略対象的な3人が一気に崩れ落ちた。お兄さまもその枠に収まりそうだけど……いかんせん、シスコンだからね。それと妹と婚約なんてできるはずがない。いやむしろシスコンすぎるがゆえに妹と婚約とか言ってきそうだが……さすがにそれは両親も反対するだろうし。
しかしやっぱりヒロインちゃんポジション。攻略対象たちを一気に壊滅させられる……素晴らしい才覚だわ……!

「そんな……バカな……。何故……っ!私は君と長年婚約してきたはずだ……!」
「だからしてませんって」

「でも……幼い頃、君と私は婚約者候補だと引き合わされたではないか」
「それ、あくまでも候補としてお会いしただけで、正式な婚約者にはなっていませんけど……!?」

「……え」
「だってその後……確かお兄さまがギャン泣きして……」
もちろん、妹をとられたくないと言うことで。

「大きくなって、私が王太子殿下と結ばれたければってことでお母さまが白紙にされたのよ」
降嫁したとはいえ、王妹。王妹としてのプライドと度胸をかけて陛下に掛け合ってくれたらしい。今となってはお母さまに感謝ね。

「だが……成長して君は私と結ばれたいと思ったはずだ。だから婚約者になってると言っていいのではないか?」
「んなわけないでしょうが。王族と貴族、貴族同士の婚約よ?ちゃんと陛下に婚約の許可もらって、婚約式しないとダメじゃないの。私たち、それやってないでしょ!?そもそもあなたと結ばれたいなんて思ってませんけど……!?やっぱアンタアンデットにしてもらえば?アリアさまに永劫飼い慣らしてもらえばいいのよ」

「あら……もちろんよ。アンデットちゃんとして……私のペットとして大切に飼い慣らしてあげる……!さぁ、いらっしゃい。私のアンデットちゃん!」
にっこりと微笑むアリアさま……神々しい……!

「ヒイイィィィ――――――――ッ!!!」
おいおい、最初と完全に態度違うじゃねえが。Y字状に尻を合わせる下僕たちの上に腰を下ろして優雅に膝を組むアリアさまに完全にビビってるじゃないの……!

「でも……でも君は……っ」
「まだ粘るんですか。王太子殿下。一般的な逆ざまぁされて破滅するダメ王太子よりもダメダメじゃないですか、後ろにアリアさまが迫ってますよ?」
「アンデットちゃ~ん、私のアンデットちゃ~んっ!」
ほら、耳元で陽気に歌いながら……首輪とリード用意して待ってるわよ!!

「君は……王太子妃教育にも来なかったあぁぁ……っ!」
「あったり前でしょうが、私はあなたの婚約者じゃないし……そもそもあなた、アリアさまと婚約するんでしょう?陛下の許可、もらっちゃったわけよね。結婚するしか……なくない?」

「あ゛――――――――――――――っ!!」
王太子、絶叫。しかしながら身から出た錆。頭から出た勘違い。

「むしろアリアさまと結婚するんだから……浮気と不倫はそもそもご法度じゃない。マジの本気でアンデットにされるわよ」
アリアさまは……本気よ……!

「では父上に急ぎ……婚約の解消を……!」
変わり身早ぇなオイ。さすがに命の危機を感じるのか、アンデット化の危機を感じるのか。しかも今度は破棄ではなく解消か。私の時とはえらい違いである。そもそも……破棄するものは何もなかったはずだが。

だけど……そんなに簡単に逃れられるものかしら……?ほら、アリアさまがくわっと目を見開いて……そして王太子殿下に告げるのだ。

『裏切ったら……許さないから』

おどろおどろしい声であった。それと同時に王太子殿下は今度こそ床に突っ伏して大人しくなった。

「んふふっ。私ね……好きになった殿方が……みんな浮気とか、不倫とか……たくさんしてきてね。ずっと私だけを見てほしいって、願っていたの……」
まぁ……うん。それゆえにアンデット化させて強制的に服従させているのよね。

「でも、ベリルなら、私だけを見てくれそう……!」
まぁ、浮気や不倫をしたら命の危機だかんな、王太子。

さて、ベリルがアリアさまに完全服従させられたところで……残すは2人。

「そんな……ぼくは……ぼくは……!ビアンカちゃんと婚約したんだ!」
まだ吠えるか泣きべそヴィンセント。

「だからそんな記憶はありませんって」
「ひどい……ぼくとの約束を忘れたの……?」
え……?何も思い当たるものはないのだけど。

「ぼくと夢の中で結婚するって約束してくれたじゃないかぁっ!」
「知るかいアンタの夢なんて!」

「うそ……だって夢にビアンカちゃん出てきた……!」
「知らんがな……!それに、その夢はアンタの脳が見せているだけで、私の脳とはリンクしてないの!私と夢は共有してないのよ……!」

「そんな……っ、じゃぁぼくは一体……今まで何を見てきたん……だ……っ」
床によつんばいになって泣きじゃくるヴィンセント。いや……何を見てきたって……完全に夢だろ。

――――そして最後は……。

「ミゲルだったかしら」
「ミシェルですが」

「どっちでもいいけど、普通に考えて伯爵令息が王妹の娘兼公爵令嬢の婚約者だなんてあり得ない!以上!」
「いやいや、待ってください!ぼくは聞きました!あなたさまがぼくの婚約者だと……!」
「え、誰に?」
冗談でも言っちゃいけないことだと思うのだけど。

「父上である……騎士団長にです……!」
「いや、何がどうなってそんな話に……」

「将来ローズサファイア公爵令嬢を嫁に娶れば、ローズサファイア公爵家から夢のような結納金がもらえて、しかもローズサファイア公爵令嬢をだしに恒久的な金の搾取ができると……!だからぼくはローズサファイア公爵令嬢の婚約者なんだぞと、父上が……!」
どこからどう見ても、うちに利益も何もない金目当てじゃないの……!しかもうちを金のゆすり先としか見てないし……!

「因みに金をせしめて何に使う気よ」
「父上は、夢を買うんだと。その夢を買うと家族みんなが幸せになると……!父上はとても素晴らしいことをなさっているのです……!」
いや、違うでしょ。それ完全に賭博でしょうがっ!!!

「夢を……買えるのか……!?是非とも知りたい!ぼくもビアンカちゃんとの夢を買いたい!!」
どうでもいいところでヴィンセントが食い付いたぁ~~~~っ!!!そしてその夢はヴィンセントの見ている夢とは違うわよ……!そもそも……。

「アンタたち……私と婚約することに目的があるようだけど……じゃぁ何で婚約破棄断罪劇なんてやったのよ」
そこが最大の謎なのだが。

「だって流行りだし」
と、ヴィンセント。

「若いうちしかできないだろ!?こう言うの……やって見たかったんだ……!」
と、ミトコンドリア。

あれ……ミトコンドリアだったかしら……まぁいいか。取り敢えず。

「お兄さま」
「あぁ、分かっている……!ハァハァ……お兄さまはビアンカたんとの婚約は断じて認めません……っ!」
いや、そっちじゃないわよ……!!

「とにかく、ホーリーストーン公爵家に対しては、私と婚約しているという虚言を振り撒き、またその虚言により断罪劇をおっ始めてさらに周囲の混乱を招いたとして、ローズサファイア公爵家からの正式な抗議文を送ってちょうだい!」
「妹のお願い……お兄さま……ゾクゾクする」

「はいはい、分かったわ。次に!アゲート伯爵家にも同様に抗議文を!あと、騎士団長ともあろうものが賭け事に乗じ、あろうことか公爵家から金をせしめようとしていたことを、正式に王宮に通報しておいて。いいわね?」
「お兄さま、妹からのお願いの連打に気絶しそう!」

「気絶する前にやってきてちょうだい」
「イエス、まいシスターっ!」
お兄さまは駆けていった。よし、お兄さまはいざというときはやる男だ。原動力はだいたいが妹成分なのて使いどころを選ぶが。

「さて。誤解が解けたんだから、もうこの断罪劇は終わりよ。もう招待客もみんな帰ってしまったし……私たちも解散しましょ……!」
思えば断罪劇が始まった時はちょっとは盛り上がっていたけれど、ベラドンナバトルロワイヤルが始まった辺りから、近衛騎士たちが招待客たちを帰していた。当たり前だ。あのストッパーの外れたアンデットは危険すぎるものね。

「行って……しまうのか……っ」
何でそこで悔しがるのよ王太子は。

「そうよ。私も疲れたから帰るのよ。てか、アンタにはアリアさまがいるじゃない」
「ひぃうっ」
あぁ……分かった……だからひとりになりたくないのね。でめ大丈夫。他の下僕たちもいるから寂しくないはずよ。

「んふふっ。私たちだけの時間ねっ」
アリアさまにそう囁かれた王太子は……完全にビクついていた。

「あの……ぼくたちはどうすれば……」
と、そこにはヴィンセントとミハイル。

「……あの、びっみょーに違う気がするのは気のせいですか?ローズサファイア公爵令嬢さま」
え?そうだったかしら。割りと近かったと思うのだけど。

「知らないわよ。自分たちで何とかなさい」

「そんなぁ……」
「ビアンカちゃ~~んっ!」
そんな泣き疲れても。

「リア充聖騎士爆破キメラオウイェイ!」
トールはトールで何だかすごいこと言い出したし。

「おら、アンタら。オウイェイされたくないならとっとと帰れ!」
今後王宮からの捜査が入るとしても……家で大人しく待っててもらうに越したことはないでしょ。

「ひぃーっ!」
「ぎゃーっ!」
そして一目散に逃げて行ったわね、骨のないやつらめ。

「さて、アマリリスちゃんはどうしようかしら?ねぇ、トール」
「あぁ……アンデットホムンクルス作ったのは俺だから、俺預かりになるかな。魔法解剖医の事務所があるから、そこ来なよ。ビアンカもおいで」
「え、私も……っ!?」
「いいじゃないですか。私もビアンカさまとご一緒したいです!」
「アマリリスちゃんがそう言うのなら……」
まぁ、行ってやってもいいなぁと思っていた……。

――――時が私にもありました……!でも……でも何で……!

「ここ、どこよ……!」
サスペンス劇場のクライマックスみたいな断崖絶壁の上にいるんだけど私たち……!何がどうなってんのおぉぉ~~~~っ!