「実は学園に入って暫くして……あれは1年生の終わり頃でしたでしょうか……いきなり目の前にベラドンナが現れたのです」
何と……っ。ベラドンナは修道院にいるはずだったのに……何故……!?
しかし……1年の終わり……?

「何でも修道院を抜け出し、全身黒ずくめの不気味な方とつるんでいらして……」
く、黒ずくめって……。トールを見る。

「全身って……白目もか……?興味深い」
いや、そっこじゃねーよっ!!でもトールではないわよね。だだたらまずアマリリスちゃんが気付くって。

「いえ……白目部分は白目でしたが……目元以外は黒ずくめで……私は……その方とベラドンナに、殺されました」
「え……?いや、でも……2年の時も3年の時も、普通に生きていたじゃない」

「いや、ヒロインちゃんの言うことは正しい」
言い出しっぺの私が言うことじゃないけれど、トールがアマリリスちゃんをヒロインって呼ぶのは違和感あるわね。やっぱアンデットホムンクルスでもいいかも。ごめんちゃい。

「あの打撲痕はそれくらい前のものだ」
「ええぇっ!?分かるの!?」

「魔法解剖の中には魔法鑑定も含まれる……!死亡推定時刻……いや、年数だってお手の物だ」
うおおぉぉっ!今までで一番魔法解剖医っぽい仕事してるぅ~~~~っ!どっちかと言うと魔法鑑定だけども、本人が魔法解剖に魔法鑑定も含むと言っているんだからいいのよ。

「だからその時に殺されたアンデットホムンクルスは、死霊魔法で蘇ったんだよ」
「え……トールが蘇らせたんじゃないの?」

「そんなこと言ってないけど」
「……っ」
そう言えば――――――――っ!だ、騙された……っ!!

「トール先生の言う通りです」
その……先生……?まぁ解剖医もドクターだし……ドクターであることに代わりはないのだけど……。マッドな先生にしか聞こえないのはどうしてかしら。

「私はその時……ベラドンナに殺され、ベラドンナや黒ずくめたちの死霊魔法で蘇ったのですが……同時にベラドンナの魂が私の中に入ってきて……ベラドンナの魂が私の身体を支配し始めたのです」
「ひえぇっ!?マジなの!?でも何でベラドンナの魂がアマリリスちゃんの中に入れたの!?」

「死霊魔法で、ベラドンナがお前の身体の主になったんだ」
「その通りです」

「因みに、その魔法は魂移りと呼ばれていて……使うこともできるが、ちゃんと元の自分の身体を残して置かないと、その魔法は弱まる。魂だけだとできることに限りがあるからな」
「じゃぁベラドンナの身体もどこかに……」

「あ……ベラドンナは自分の顔が相当いやだったのか……焼却処分していましたね。彼女はとにかく、私になりたかったんです」
「そうか……だから束縛の力が弱まり、外にお前が出て来られたわけだ」
「……はい。それまではベラドンナが私の身体を好き勝手に使い……あろうことか王太子殿下や高位令息さまたちに手を……」
あぁ……2年になってからビッチになっちゃったのは、中身がベラドンナだったからなのね。

「でも、聖女なのに」
女神の加護があるはずでは……?
「聖なるものを汚すのは黒魔法使いの喜び……ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!汚すものはたくさんある……!」
こ……こやつ。本当に犯人じゃないわよね!?実は裏で糸引いてないわよね……っ!?

「でもアンタ……聖騎士は嫌いなのに聖女にはそこまでつっかからないわよね」
私と手を握ったときは病みまくりだったけども。

「俺は……女を侍らす聖騎士ぎ嫌いだ!リア充はぜろおぉぉぉ!!!」
あぁ……女性じゃなくて、男侍らすのはオッケーなのか。こいつの感性がよく分からないが……アリアさまのこともそんなに気にしていないようだ。

「だけど……」
「何?」
また急に病み全開になるのは勘弁して欲しいのだけど。

「俺は……ビアンカだけでいい」
どったーんっ!

「きゅ……急にそんな甘いセリフ吐かないでよ……!」
まぉ浮気性ヒーローじゃなくて何よりだけども……!

「それで……なんだけど……アマリリスちゃんはこのパーティー会場に来る前に……死んでいたのね」
「そう言うことだ」
「あと犯人はベラドンナ!」
「よし、捕らえろ部下ども弟子ども!」
え?トールの部下さんとお弟子さん……?

「ちゃぁんとイイコにしないとダメよ……?うおりゃあぁぁぁぁ――――――――っ!!!」
お弟子さんは紛れもなくアリアさまーっ!そしてこの場に彼女以上の適任はいねぇっ!!そして……。

「うおぉぉぉっ!(あね)さんに続けぇっ!」
「引っ捕らえろおぉぉぉ!!」
次から次へと涌き出てくる黒ずくめたちいぃっ!こっちはこっちで黒ずくめ大量に抱えてたし……!

てか……あれ。王の影さんと見た目区別できないんだけど……あ、でもさすがは解剖医の部下さんたち。ちゃんと……白衣スタイルの黒衣を上に羽織っている。

「わ……わたじは無実よおぉぉぉっ!どこにそんな証拠があるのよおぉぉっ!!」
「それはお前の魂の記憶の中だな」
ビシッと告げたトールは、すかさずベラドンナに手をかざし……。

「空間記憶ほじくりモニター、オープン!」
すごい!魂の記憶を映し出す魔法のモニターだなんて……ちょっと名前の中に恐いもんが入っていたのだけど……それは気のせいかしらね……?

何はともあれ映し出されたのは……アマリリスちゃん本体を撲殺する……ベラドンナと見られる女性と……黒ずくめ!目元しか分からないけど……彼の正体は……。

「もう分かったな」
「え、何が分かったのよ」

「あの顔、見覚えがあるだろう」
「いや……全然。てか目元しか見えないから分からないわよ」

「だがさっきも目元しか見えていなかったぞ」
「……え、さっき……?」
さっきって……黒ずくめの人になんて……。――――――あ。ひとり、いるじゃない……!

「まさかそれは……っ」
告げかけたその時。

「きゃっ!?」

いきなりトールに腕を引き寄せられ、彼の胸元にぽすんと身を預ける形になってしまう。

「ちょっと、いきなり……」

「チッ。避けられたか」
後ろから聞こえたその声に振り向けば……。

「えぇと……黒ずくめの人。ごめんなさい。ちょっと黒ずくめばかりだと見分けが……」

「いや、さっき会ったでしょうが……!私こそ……先ほどあなたに猛毒ポーションを差し上げた王家の影!」
「や、やっぱり……そしてよく見たら……モニターの黒ずくめの人と……うーん、同じ人?」
よく判別できないのだけど。

「いや、分かるでしょうが、同じでしょうが」
「そんなこと言われたって……目だけで判断しろとか難しいんですけど」
何つー無理ゲーだよミニゲームとかであったらプレイヤーキレるわっ!!

「任せておけ、ビアンカ。この通り、あのモニターの目元を切り取って……」
そんなことまでできるの?魔法モニターすごいわね。それとも解剖医ならではの技かしら。

「この黒ずくめの目元に照合!」
「うぐぁっ」

「ちょっと、うぐぁって言ってるわよ、目ぇ瞑ってるじゃないあんなんで照合できるの!?」
※よい子のみなさんは、他人の目に直接照合してはいけません。

「問題ない。闇魔法で透過させ、中の眼球で照合する……!」
「ハイテクすぎるわよ闇魔法使い……!いや、魔法解剖医……!」

【フゥ~~ウ~~~蘇れ~~蘇れ~~ヒャ~ハハヒャ~ハヒ~~イィッ】

「ほら、照合率100%のメロディーが流れた!本人だ!」
「それは良かったけど……例の儀式のメロディーだったけど!?いいのそこは……!アンデットたちみんな反応して踊っちゃったわよ!アマリリスちゃんまで……!ベラドンナは拘束されてるから無理だけど……って、何で王家の影さんまで!?さては……アンデット!?」

「……ふっ、まさか見破られてしまうとはな……!」
「え……?あー、うん、この人ずっとアンデットだったの!?」
「いや、さっきまでは生きてたけど」
「陛下の元に行くまでに何があったの……!?てか陛下は無事……!?そもそも陛下の影である影さんが、どうしてアマリリスちゃん撲殺事件に噛んでいるのよ」
陛下は……陛下はアマリリスちゃんを助けてくれたのよね。自ら男爵領に赴いてまで……。

「答えは簡単だ。この影が……王の影ではないからだ」
なぬ――――――っ!?

「ははははは、だから、どこの誰なのか分からない相手に、ほんまもんの毒薬売るわけないじゃんって、言ったでしょ?」
「あぁ、それで……っ」

「わ、私が王家の影ではないと言う証拠はないだろう!」
「それもそうよね……でも何で偽物だって分かったのよ」
「いや、偽物である前提なの?ねぇ」
そうは言われても……やっぱり目元しか見えない黒ずくめよりも黒衣の黒ずくめだわ。

「俺、影の顔把握してんだー」
「はいいぃぃぃっ!?そうなの!?魔法解剖医ってそうなの!?そう言うものなの!?」

「いや……記憶してるのは俺くらいだよ。だから、最初からこの影が偽物だって分かってた」
何で!?ほんとどゆこと!?

「く……っ、まさかそんな……っ」
偽物の影さんも驚愕している。

「その様子じゃぁ本物であることを証明するために陛下の元へ行ったんだろ?」
「……っ」
偽物の影さんがふいと顔を背ける。

「そう言えば……っ!陛下は無事なの!?」
「無事無事ぃ!この偽物がアンデットとして帰って来たからには、無事だ!」
いーや意味分からんわ!それとも陛下に屠られてアンデットとして復活したの?

「そうだな……父上は……昔から恐ろしい」
息子、震えとるやん。どんだけや陛下。以前お会いした時は、私がお母さまそっくりに育ってくれて嬉しいってのほほんと微笑んでらしたんだが。

「ふふふ、それで失敗したこいつは、ここに使いに出されたわけだ。使いな行く以外は自由に行動できるから、また俺を狙って……ビアンカも巻き添えにしようとした」
「え……っ、危なかったの!?それに……また……?」
そうだ……この影さんの偽物……私に猛毒ポーションを渡そうとしたんだわ。そして飲む相手は……トールだ。

「でもあからさますぎない!?直接渡すだなんて!」
しかも作者はトールだし!
「たまには趣向を変えてみるのも……アリだろう!」
「変えすぎだと思うけど……そもそも何でトールを狙ったのよ」

「その……堂々と黒魔法を使える立場がほしくて」
「つまりはアンデットホムンクルスにしたのと同じことをコイツも企んだんだ。そして陛下にもな」
「何てこと……!」

「でもお前は大事なことを見落としている」
「大事なこと……だと?」
偽物の影さんがトールを見る。

「俺は魔法解剖医だが……しかし医者でもある」
まぁ、医師免許が必要だものね、解剖医だもの。

「黒魔法使えても医療の知識がなきゃぁ適切に解剖できんだろう。解剖できん魔法解剖医は……他の魔法解剖医の下僕になるしかねぇ」
こっわいな魔法解剖医~~っ!それは正論だけども魔法解剖医の闇が恐い~~っ!
てか下僕……?まさかアンデットにさせられるんじゃぁ……いやー、まさか……?

「だがしかし、お前は魔法解剖医に挑む実力すらなかったようだな」
いや、待って。魔法解剖医、挑まれるの!?RPGのエリアボスみたいな感じで立ちはだかるの……!?

「あと、お前は違法闇魔法使用の容疑で逮捕!」
『うぉっしぇーい!フゥ~~ウ~~~蘇れ~~蘇れ~~ヒャ~ハハヒャ~ハヒ~~イィッ』
偽物の影さん捕獲するのはいいけど部下さんたちいぃぃっ!歌うんかい!そして踊ろうとした偽物の影さんに襲い掛かって強制的に沈めたぁ~~~~っ!

「あれ……?アマリリスちゃん殺害の真犯人は捕まったとは言え……アマリリスちゃんがパーティー会場で倒れていたのはどうしてかしら……?」
そこが気になるのだけど。

「その犯人もコイツだろう」
えぇ――――――っ!?偽物の影さん!?

「ふ……っ、バレちまったようだな」
トールの部下さんたちに拘束されている偽物の影さんが吐き出す。

「パーティーにまぎれてベラドンナを始末しようとした」
「どうしてパーティーの時にわざわざ……?チャンスま色々とあったのでは……」

「だってあの女生意気すぎんだよおぉぉぉだ!アンデットのくせに顎でこき使うわ、散財ひどいわぁっ!!」
「あぁー……そう言う」

「それに……運が良ければローズサファイア公爵令嬢に罪を擦り付けられるかなって。てへっ」
「てへじゃねーよ。はた迷惑な」
「しかし……ベラドンナが既にアンデットであったがために、普通に復活したと言うことだ」
「まぁアンデットの倒し方って、普通の倒し方じゃダメだものね」

「く……っ、神殿でせっかく聖水もらったのに……!」
「あぁ、アンデットと言えば聖水ね!」
「いや、聖水は効かないが」
「効かないのおぉぉっ!?」
アンデット用のオーソドックスアイテムじゃない~~っ!

「聖水はただの美味しい名水だからな」
「うそ……ただの美味しい名水!?お肌にいいですよって言われて神殿から買わされたのに……っ、詐欺じゃないの……!」
「許せません!ビアンカさまを騙すだなんて!」
「そうよね!?アマリリスちゃん!」
あぁ……アマリリスちゃんは心のキレイな子だものね。神殿の黒いことも知らなかったんだわ。ん……?神殿……?

「ヴィンセント……アンタ……知ってた?」
私は聖騎士でもあるヴィンセントを見やる。

「……その、ごめん。聖女さまには内緒ってことで戒厳令敷かれて……たんだけど」
もじもじ。

「でも、ビアンカちゃんのお肌はいつもキレイだよ……!」
「褒めればいいって問題かっ!あとこの美肌は毎日磨いてくれる侍女たちのお陰であって、ただの水のお陰じゃないわよ……!」
「解剖する?」
トールの問いが、耳朶に染み渡るように響いてくる。

「……うん……!」
私の答えは決まっていた。

「いやぁ――――――――っ!ビアンカちゃんお願い!やめて!解剖は嫌だぁ~~~~~~っ!」
「じゃぁ神殿の詐欺行為告発して被害者救済しろぉっ!」

「まぁ……偽物になったのは2年前からで、ベラドンナが手動したんですけど」
え……?アマリリスちゃんのセリフにぽかんとなった。いや、聖女さまには内緒だって言っておいて……ベラドンナが全ての犯人じゃないの~~っ!そしてアマリリスちゃん……知ってたのね。

「ごめんなさい……ビアンカさま」
「あなたのせいじゃないわ。全ては……ベラドンナのせいね」
そんなベラドンナは、共犯と共に黒魔法使いや黒魔法騎士たちによって連行されていった。

――――――しかし……まだ問題は全て解決していない。その証拠に、王太子殿下がすっくと立ち上がり、私の前に仁王立ちになった。

そうよね……その問題も、解決しなくちゃね。