その場にしゃがみこんで、泣いた。ごまかすことも、その場から立ち去ることもできなかった。姉に縋りたいわけではなかったし、そんな資格私にあるわけがないと思っていたのに、これではまるで姉が悪いみたいで、けれど。

 かたり、と背中の部屋から音がする。静かにすうっと障子が開いて、私がごしごしと涙を拭うと思い切り息を吸い込んだ。


「お姉ちゃんごめんね、私すぐに戻、……っ」

「ごめんね、茜」


 ひくり、と喉の奥がぎゅっと詰まる。ぎゅっと抱き竦められて、喉の奥で声が絡まった。


「お……ねえ、ちゃ」

「ごめん、ひとりにしてごめんね茜。茜も苦しかったよね、辛かったよね、……ごめんね……」


 あ、と声が漏れた。その瞬間、喉の奥に絡まっていた言葉が、勢いよく口をついて出ていくのが分かった。


「大好き、なのに……っ!」


 大好きだ。大好きなのだ。

 姉も、彼も。大好きで、選べなかった。でも、選ぶ必要なんてなかった。両方選ぶ選択肢があると思っていた。でもそれは、私の間違いだった。

 どちらも選べない選択肢があって、それが当たり前だということを、私はすっかり忘れていたのだ。


「大好きなのに、大好きなのに、大好きなのに……! 私、お姉ちゃんもあの人のことも大好きなのに……っ! 私は、ただ、幸せそうなお姉ちゃんのことを見て育ってきて、きっとお姉ちゃんもこの先幸せなままで、私もきっとそうなれると信じていたのに、お姉ちゃんみたいに幸せになれると思っていたのに……!」

「ごめんね、ごめんね茜……私が、突っぱねられたらよかったのに……っ!」

「そんなの……そんなの無理だよ……だって、私たちは、やっぱりどこまで行っても、お父さんのものなんだもん……」


 父の、言いなりになるしかない。それが、私と姉の役割で、だから最初から、幸せなんて求めてはいけなかった。

 姉の胸に顔を押し付ける。ゆっくりと息を吸い込めば、大好きな姉の香りがした。落ち着く香りに、言葉があふれて仕方なかった感情がだんだんと落ち着いていくのが分かる。お姉ちゃん、と一言呼べば、うん、と頷く姉にかすかに顔を上げた。


「私、……っ家を、」

「もういいの、茜」


 家を、出る。