「大げさだなぁ……でも、茜もちゃんと、好きなひとと結婚できるといいね」

「……うん」

「心配?」

「心配だよ。……まだ、誰を好きになるかどうかも分からないのに」


 恋、というのは、本当によく分からない。

 姉が結婚する前、ひどくうれしそうにしたり、悲しそうにしたり、かと思えば笑っていたり、忙しそうにしていたのをよく覚えている。だから私は、幼いながらに恋というものはずいぶんと大変なものなのだなぁと思って、そしていまだにそういう相手には出会えていない。


「焦らなくても、茜にだってちゃんと大切なひとは見つかるよ」

「……本当に?」

「本当本当。私だって、茜くらいのころは分かんなかったよ。だって、結婚なんて父親の意思でするものだと思ってたし」


 姉も同じなのだ。姉のいまの生活がどれほどの奇跡の上に成り立っているものなのか、きっと私よりもずっとよく分かっているのだろう。

 でも、姉のその言葉を聞いて、ようやく、分からないことは別に悪いことではないのだと実感することができた。

 だって、いま、姉はこんなにも幸せなのだ。


「私も、早く好きなひとを作ってみたいな」


 誰かに恋をしてみたい。誰かを愛してみたい。

 姉のように、大好きな誰かと、幸せな暮らしをしてみたい。

 なれるよ、と姉が笑った。幸せな未来を疑いもしない顔で、姉は私にそう言った。


「だから、茜に好きなひとが出来たら、もっとたくさん話をしようね」


 うん、と笑って、私は姉と同じように、そこに必ずあるはずに思いを馳せて、頷いた。

 大好きな姉が、これからも幸せでいられますように。そして、私にも、姉のような幸せが訪れますように、と。