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 白装束に身を包む。姉に手伝ってもらいながら、一つ一つ、ゆっくりと準備を進めていく。

 私も姉も、何も言わない。もう、そうするしかないから、いまさら交わす言葉を持たなかった。

 準備を終えると、家の前で姉と無言で向かい合った。母ではなく、姉の手によって私の頭に綿帽子が被せられる。無言でそれを受け入れると、茜、と呼んだ姉にかすかに顔を上げた。


「幸せになってね、茜」


 名を変えることは知っている。それでも姉は、私のことをその名で呼ぶ。

 まるで、それが罪滅ぼしであるかのように。

 そしてそれを否定しない私もまた、それを許すことが罪滅ぼしだと思っているのだ。


「お姉ちゃんも、幸せになってね」


 この後、姉も別の相手に嫁ぐことが決まっている。うん、と凄絶な笑顔で頷いた姉の顔を目に焼き付けて、私はくるりと踵を返した。

 相手の家まで、歩く。本当は供がつくのを断って、私はひとりで相手の家に輿入りする。

 反対されるかと思ったけれど、私の夫となるひとはそれを許したらしい。それならそれでと私は荷物を先に送って、身一つで彼の実家に輿入りすることを決めた。

 私の夫となるひとは、その家の前でひとり、立って私を待っていた。

 その数歩前で足を止めて、顔を見上げる。彼と似ていることに一瞬胸が痛んで、その感情を消すように一度瞬きをした。


「名を変えた、と聞いている」


 はい、と頷く。夏真っ盛りの真っ青な空が頭上に広がっている、中で。