「俺が、きみとの未来を上手く思い描けなかった。きみと一緒になって、きみが幸せになれるのかどうか分からなかった。きみを幸せにする自身が、なかった。きみと一緒にいたいと思っても、それを許してくれる環境じゃないことを理由に、俺はきみを諦めたんだ」
「でも、それは」
「俺じゃきみを幸せにしてあげられない。俺は、兄貴にはなれない。だから俺のところにいても、きみはきっと幸せになれない。だから託した、きみのことを。兄貴に、きみを幸せにしてやってくれって、……勝手に」
「私は、きみがいてくれたら、それだけで幸せだったのに!」
彼の言葉にかぶせて、小さく言葉を叫ぶ。それに驚いたように口を閉じた彼の瞳を見つめたまま、私はあふれそうになる嗚咽を押し込めて、必死に言葉を紡いだ。
「きみの立場は分かってる。長男じゃないきみが、きみのお父さんから少し疎まれていたことも、分かってる!」
彼が押し黙った。あまりはっきり言いすぎたかもしれない、と思ったけれど、こんなことになっていまさらなことではあった。
「それでも私は、きみのことが好きだよ。そんなの関係ないと思うくらい、きみのことが愛しかった。お姉ちゃんが初恋のひとと結婚できたから、私もきっとできるんだと思ってた」
家同士の繋がりはもうある。私は彼の兄のことも、彼の父親のことも知っている。
だから、と願って。きっと、と信じて。
「でも私も、……ごめんね。私もやっぱり、私に意思なんてないんだ」
こんなにも想い合っているのに、どうして私たちは一緒にいることが許されないのだろう。
それでもやっぱり、私も彼も、一緒に逃げよう、とは言えないのだ。
「きみが好きだ。いまでも、俺はきみを愛してる。それでも、俺はきみと一緒に人生を歩むことができない」
「私だってそう。私だって、きみのことが好きで、愛してるの。……でも、私はやっぱり、きみを選ぶことができない」