チビ岡さんと遠足でお菓子をもらって以来、僕は彼女を意識してまうことになった。
「おはよーさん、童貞くん」
「あ、ああ。お、おはよう……チビ岡さん」
下駄箱で挨拶するぐらいの仲だが、僕は確信していた。
この前の遠足で、大事なおやつを僕だけにくれたという手ごたえ。
イケる!
小学校一年生で、僕はリア充になれる。
罪深い男だ。
単身、博多から来て、初めての女の子が、関西の人とはな……。
だが、そんな思惑とは裏腹に、遠足からすでに半年以上経ったが、なにも進展なし。
どうしてだ! チビ岡さんは、確実に落とせるはずだというのに。
そうか、恥じらっているのだな。
仕方あるまい。僕から告白するのがマナーというものか。
そんな時、お父さんの転勤が決まった。
今度はこれまた遠い名古屋という街らしい。
僕は激しく憤りを感じた。
「お父さんのバカヤロー! せめてチビ岡さんと付き合ってから、引っ越しさせろや!」
なんて心で叫ぶ。
しかし、このままチビ岡さんと別れるのも辛いってもんだ。
最後に告白だけはしておこう……そう決心したときは、既に冬。
当時、学校に暖房なんてなく、めちゃくちゃ寒かった。
だから、先生が「イスのうえに置く座布団を持ってきていいよ」と言ってくれ、みんないろんなキャラクターの座布団をのせている。
僕は当時流行っていた国民的ギャグマンガ『お●っちゃまくん』を使用していた。
それで、クラスではちょっとした人気者になれた。
みんなが「ええな~ 童貞くんの座布団わ~」なんてほめてくれる。
チビ岡さんも「可愛いなぁ~」なんて、寄ってくる。
よし、この流れで、チビ岡さんに告ろうか、と決意した瞬間だった。
クラスでもヤンチャな男の子、ヤンくんが何を思ったのか、僕の座布団を奪い取る。
そして、それを持って教室中をうろちょろする。
きっと僕の座布団に嫉妬していたのだと思う。
あの座布団は、使い始めて2カ月ほどだ。
その間、一切洗っていない。
それをヤンくんが、大人しいチビ岡さんの顔に向かって、なすりつける。
「ほれ~ チビ岡~!」
「キャー! やめてぇーや!」
嫌がるチビ岡さんを無視して、ヤンくんはヘラヘラ笑いながら、尚もグリグリと彼女の顔にこすりつける。
当の僕は、「やめなよ!」なんて弱弱しく叫ぶが、ヤンくんはやめようとしない。
その時だった。
大人しいチビ岡さんが、初めて怒鳴り声をあげた。
「ええ加減にしてぇーや! お尻臭いねんっ!」
それを聞いたヤンくんは、「ああ……そりゃ悪かったなぁ」と僕に座布団を返す。
「もう、こういうことやめてやっ!」
息を荒くして、顔を真っ赤にしていた。
初めての恋は、僕の熟成されたケツの臭いで、終わりを迎えた。
だが、そんなことでくじける僕ではない。
チビ岡さん……。わざわざ、僕のケツの臭いを真正面から食らうなんて。
なんだか違う扉が開く、音が聞こえてきた。
まさか!? あの子、僕に惚れていたから、臭いを嗅いだのかもしれない!?