目の前には閑散とした学校の校舎がそびえ立っている。お盆に当たり、学校閉鎖期間に指定されているため、部活生どころか先生もいない。見回すと辺りは全てフェンスで囲まれていて、正面は重厚な校門が入口を塞いでいた。
「ねえ、お盆休みに集まって学校のグラウンドで魔法を試すとか言い出したあんぽんたんはこの中にいる?」
聞きながら、咲希が永田くんの方を向いて、首を傾げる。視線を向けられた永田くんはおずおずと両手を上げて自首をした。
「でも部活の後だと人いっぱいいるし、学校じゃないと俺の魔法強くならないし」
永田くんが尻すぼみになりながら言い訳をしたところで、それまで黙っていた私はいいことを思いついたというふうに手を打つ。
「そうだ、フェンス登ればいいんだ!」
いきなりすぎる私の提案を聞くやいなや、2人が顔を見合せ、しばらく硬直する。
「なんか唯って普通のフリして、頭のネジ2本くらい外れてるよな」
「それは私も思う」
呆気にとられた様子で2人が話し込む隙に、私は、早速フェンスに手足を引っ掛けてよじ登る。それに気づいた咲希が必死に声を上げた。
「待って待って、行動が早いって!私もう前科増やしたくないんだけど!?」
あれから結局、事情を考慮された咲希は反省文提出、鏡花は加えて厳しい生徒指導の処分が下された。しかし、追加で今回の建造物侵入の罪がバレれば、流石に咲希の問題児入りは不可避だ。
「くそっ、唯につられてやっちまった」
「もう反省文書きたくないよおおお」
フェンスを登りきって学校の敷地内に降りた後、振り向いて後方を確認すると、咲希と永田くんも私を追いかけて学校への不法侵入を完遂していた。
「はい、問題児レベル99確定」
反省文の弱音を吐く咲希を指さして、おちょくっておく。
「誰のせいだと思ってるの!」
ぷんすかと効果音を口でつけ加えながら、怒った素振りをする咲希。その隣では、もう吹っ切れた様子で永田くんがストレッチ体操をしていた。ここに辿り着くまでが大変で忘れかけていたけれど、彼が魔法を使ってくれないことには、ここまで大仕事をした今回の目的は達成されないのだ。
「よーしじゃあちゃっちゃと空飛んでくるわ」
それだけ言い残すと、今度は窓ガラスが割れないように、永田くんはグラウンドの真ん中辺りに移動する。威力で怪我をする可能性があるため、咲希と私は離れた木陰で静かに見守ることにした。今のところ、残夏の暑さを軽減する魔法はない。夏の魔法はちょっと違う。
して、少し先で永田くんが手を振ると、校舎の正面に向き直る。
「あれ見て真面目にやってると思う?」
咲希が私に疑問を投げかけ、指を向ける先には、その後、変な踊りを披露し始めた永田くんがいた。右手を口元あたりに持ってきて、くちばしの形を作り、左手を腰にあてる。そのまま腰を落として、中腰の姿勢をキープしたまま身体を左右交互に振り返らせていた。かなりキツそう。サッカー部の永田くんでなければ、長くは持たなそうだ。
「あれはふざけて……」
咲希の問いかけに答えたかけたその時だった。いきなり当たりが暖灯のオレンジ色を纏って、強風が木々を轟々と揺らす。突然の進展に、私は思わず息を飲んで永田くんに釘付けになる。
そして段々と吹き荒れていた風が永田くんを中心に、渦巻き状になって、まとまっていくのがわかった。少しして、巨大な竜巻が永田くんの足元に収束した瞬間、ふっと弾かれるように飛んだ。10cmくらい。
「しょぼ!!」
咲希と揃って出た本音に、顔を見合せて笑う。すぐさまと永田くんの傍に駆け寄って、溢れ出る疑問を投げかける。
「なにあのダンス!へんてこな。」
「演出の割に全然飛んでないんだけど!ジャンプした方がよっぽど高く空飛んでるよ。魔法の意味ある?」
「お、おお……」
永田くんが私たちの勢いに気圧されながら、応答する。
「確かに飛距離は全然だけど、もっと強い力を引き出したり、あとは、唯の魔法もこれくらい増大するきっかけを見つけられれば期待はできるよねってくらい」
「なるほど」
私はなんとも曖昧な話だとは思ったけれど、一応その場では納得して、頷く。
「んで、あのダンスは……」
言いかけたところで、永田くんが木陰にあった自分のバックを取りに行く。すぐに戻ってきて、
「これ」
そう言いながら私たちの前で一冊の本を取り出す。
「あっそれ……」
思わず口に出していた。題名は""。私が最近読んでいた、そして、鏡花に破られた本だ。記憶の片隅を探ると、周りの友達にいじられながらも、永田くんが真剣な顔をしてこの本を読んでいた時があった気がする。
「唯に申し訳ないけど、ちょっとこの本に触れる」
少し気まずそうに、永田くんが断りを入れる。もしかしたら私がいじめ行為について思い出して、不快な気持ちになる可能性を考えて気遣ってくれたのかもしれない。
「もう全然平気だから大丈夫だよ。気にせず話して」
確かに、強烈に嫌な事実として頭の中には残っている。けれど、今となってはこうして永田くんとも咲希とも強すぎる絆を結ぶことができている。だから、2人が一緒にいる今の私は、永田くんに向かって、本音での大丈夫が言えた。
「わかった、ありがとう」
そう言って、気を取り直した永田くんが言葉を続ける。
「それで、この本すごいんだよ。最後死んじゃったヒロインの加奈を主人公が魔法で生き返らせるんだけどさ」
そこまで発したところで、永田くんが私のむっとした表情をみて、焦りを見せたのがわかった。
「ご、ごめん……そりゃ唯最後まで読めてないよな」
「別にいいよ。それで?」
突然本のネタバレを食らった私は、わざと不満気な表情を続けながら、話の続きを促す。
「ん、んで、主人公が魔法を使う時にさっきのダンスをするんだ。しかもなんか魔法の発生条件が詳しく書いてあって、この本いわく特定の場所とか特定の出来事とかに引起することが多いらしい。だから俺も学校内であのダンスをしたら魔法が暴発したってわけ」
いまいち合点がいかない私は咲希と一緒に首を捻る。話の理解はできても、どうも疑問点が多すぎる。微妙な空気を感じ取った永田くんが慌てて口を開く。
「ま、まあこんな感じでとにかく魔法暴発の起爆剤になりそうなものに触れて行くのが重要ってこと!」
「ふーんなるほどねえ?」
咲希が理解した風の曖昧な返事をする。私は、永田くんが必死に説明してくれたので、とりあえず頷いておいた。そこで、咲希ふっと顔をあげる。
「じゃあここはもう晴来期待して、思い当たるところに行ってみよう!みんな空いてる日ある?ちなみに私は明後日空いてる」
それを聞いて、流石だなと感心する。物事を進展させるのが上手い。
「俺は明後日空いてる」
「私も暇だよ」
最初に永田くんが答え、それに追随して私も賛同した。
「おっけー!じゃあ決まりだね」
「でも問題はどこ行くかだよな。他に思い当たるとこは……」
そう言って、考え込む仕草をする永田くん。その様子を見て、ふっとある場所を思いついた私は、
「わ、私、きさき橋に行ったら魔法、強くなるかも」
翼が飛び降りたあの橋を提案していた。横を見ると、咲希が目を丸くして、こちらを凝視ししているのがわかった。
「唯、あの橋行って翼のこと思い出しちゃって、吐いた挙句、気を失ったって言ってたじゃん……」
「ねえ、お盆休みに集まって学校のグラウンドで魔法を試すとか言い出したあんぽんたんはこの中にいる?」
聞きながら、咲希が永田くんの方を向いて、首を傾げる。視線を向けられた永田くんはおずおずと両手を上げて自首をした。
「でも部活の後だと人いっぱいいるし、学校じゃないと俺の魔法強くならないし」
永田くんが尻すぼみになりながら言い訳をしたところで、それまで黙っていた私はいいことを思いついたというふうに手を打つ。
「そうだ、フェンス登ればいいんだ!」
いきなりすぎる私の提案を聞くやいなや、2人が顔を見合せ、しばらく硬直する。
「なんか唯って普通のフリして、頭のネジ2本くらい外れてるよな」
「それは私も思う」
呆気にとられた様子で2人が話し込む隙に、私は、早速フェンスに手足を引っ掛けてよじ登る。それに気づいた咲希が必死に声を上げた。
「待って待って、行動が早いって!私もう前科増やしたくないんだけど!?」
あれから結局、事情を考慮された咲希は反省文提出、鏡花は加えて厳しい生徒指導の処分が下された。しかし、追加で今回の建造物侵入の罪がバレれば、流石に咲希の問題児入りは不可避だ。
「くそっ、唯につられてやっちまった」
「もう反省文書きたくないよおおお」
フェンスを登りきって学校の敷地内に降りた後、振り向いて後方を確認すると、咲希と永田くんも私を追いかけて学校への不法侵入を完遂していた。
「はい、問題児レベル99確定」
反省文の弱音を吐く咲希を指さして、おちょくっておく。
「誰のせいだと思ってるの!」
ぷんすかと効果音を口でつけ加えながら、怒った素振りをする咲希。その隣では、もう吹っ切れた様子で永田くんがストレッチ体操をしていた。ここに辿り着くまでが大変で忘れかけていたけれど、彼が魔法を使ってくれないことには、ここまで大仕事をした今回の目的は達成されないのだ。
「よーしじゃあちゃっちゃと空飛んでくるわ」
それだけ言い残すと、今度は窓ガラスが割れないように、永田くんはグラウンドの真ん中辺りに移動する。威力で怪我をする可能性があるため、咲希と私は離れた木陰で静かに見守ることにした。今のところ、残夏の暑さを軽減する魔法はない。夏の魔法はちょっと違う。
して、少し先で永田くんが手を振ると、校舎の正面に向き直る。
「あれ見て真面目にやってると思う?」
咲希が私に疑問を投げかけ、指を向ける先には、その後、変な踊りを披露し始めた永田くんがいた。右手を口元あたりに持ってきて、くちばしの形を作り、左手を腰にあてる。そのまま腰を落として、中腰の姿勢をキープしたまま身体を左右交互に振り返らせていた。かなりキツそう。サッカー部の永田くんでなければ、長くは持たなそうだ。
「あれはふざけて……」
咲希の問いかけに答えたかけたその時だった。いきなり当たりが暖灯のオレンジ色を纏って、強風が木々を轟々と揺らす。突然の進展に、私は思わず息を飲んで永田くんに釘付けになる。
そして段々と吹き荒れていた風が永田くんを中心に、渦巻き状になって、まとまっていくのがわかった。少しして、巨大な竜巻が永田くんの足元に収束した瞬間、ふっと弾かれるように飛んだ。10cmくらい。
「しょぼ!!」
咲希と揃って出た本音に、顔を見合せて笑う。すぐさまと永田くんの傍に駆け寄って、溢れ出る疑問を投げかける。
「なにあのダンス!へんてこな。」
「演出の割に全然飛んでないんだけど!ジャンプした方がよっぽど高く空飛んでるよ。魔法の意味ある?」
「お、おお……」
永田くんが私たちの勢いに気圧されながら、応答する。
「確かに飛距離は全然だけど、もっと強い力を引き出したり、あとは、唯の魔法もこれくらい増大するきっかけを見つけられれば期待はできるよねってくらい」
「なるほど」
私はなんとも曖昧な話だとは思ったけれど、一応その場では納得して、頷く。
「んで、あのダンスは……」
言いかけたところで、永田くんが木陰にあった自分のバックを取りに行く。すぐに戻ってきて、
「これ」
そう言いながら私たちの前で一冊の本を取り出す。
「あっそれ……」
思わず口に出していた。題名は""。私が最近読んでいた、そして、鏡花に破られた本だ。記憶の片隅を探ると、周りの友達にいじられながらも、永田くんが真剣な顔をしてこの本を読んでいた時があった気がする。
「唯に申し訳ないけど、ちょっとこの本に触れる」
少し気まずそうに、永田くんが断りを入れる。もしかしたら私がいじめ行為について思い出して、不快な気持ちになる可能性を考えて気遣ってくれたのかもしれない。
「もう全然平気だから大丈夫だよ。気にせず話して」
確かに、強烈に嫌な事実として頭の中には残っている。けれど、今となってはこうして永田くんとも咲希とも強すぎる絆を結ぶことができている。だから、2人が一緒にいる今の私は、永田くんに向かって、本音での大丈夫が言えた。
「わかった、ありがとう」
そう言って、気を取り直した永田くんが言葉を続ける。
「それで、この本すごいんだよ。最後死んじゃったヒロインの加奈を主人公が魔法で生き返らせるんだけどさ」
そこまで発したところで、永田くんが私のむっとした表情をみて、焦りを見せたのがわかった。
「ご、ごめん……そりゃ唯最後まで読めてないよな」
「別にいいよ。それで?」
突然本のネタバレを食らった私は、わざと不満気な表情を続けながら、話の続きを促す。
「ん、んで、主人公が魔法を使う時にさっきのダンスをするんだ。しかもなんか魔法の発生条件が詳しく書いてあって、この本いわく特定の場所とか特定の出来事とかに引起することが多いらしい。だから俺も学校内であのダンスをしたら魔法が暴発したってわけ」
いまいち合点がいかない私は咲希と一緒に首を捻る。話の理解はできても、どうも疑問点が多すぎる。微妙な空気を感じ取った永田くんが慌てて口を開く。
「ま、まあこんな感じでとにかく魔法暴発の起爆剤になりそうなものに触れて行くのが重要ってこと!」
「ふーんなるほどねえ?」
咲希が理解した風の曖昧な返事をする。私は、永田くんが必死に説明してくれたので、とりあえず頷いておいた。そこで、咲希ふっと顔をあげる。
「じゃあここはもう晴来期待して、思い当たるところに行ってみよう!みんな空いてる日ある?ちなみに私は明後日空いてる」
それを聞いて、流石だなと感心する。物事を進展させるのが上手い。
「俺は明後日空いてる」
「私も暇だよ」
最初に永田くんが答え、それに追随して私も賛同した。
「おっけー!じゃあ決まりだね」
「でも問題はどこ行くかだよな。他に思い当たるとこは……」
そう言って、考え込む仕草をする永田くん。その様子を見て、ふっとある場所を思いついた私は、
「わ、私、きさき橋に行ったら魔法、強くなるかも」
翼が飛び降りたあの橋を提案していた。横を見ると、咲希が目を丸くして、こちらを凝視ししているのがわかった。
「唯、あの橋行って翼のこと思い出しちゃって、吐いた挙句、気を失ったって言ってたじゃん……」


