さすが姉貴。仕事が早い。

ややシスコン気味だと自分でも思うが、本当に頼りになる姉で良かったと思う。俺は中学生の時に両親を立て続けに亡くし、しばらく親戚の伯父さん夫婦の家で姉貴と世話になっていた。姉貴が高校を卒業するタイミングで就職し、事情を話して会社の寮に住まわせてもらっていたが、俺が美大に行きたいことを知ってか知らずか、迷わず行けと背中を押してくれたのも姉貴だ。両親の遺してくれた遺産があるからそれくらいどうとでもなる、と。後に姉貴は転職し、役所勤務となるのだが、姉貴は俺の親代わりのような存在でもある。だからこそ苦労はかけたくなかったが、昔から面倒見の良さは人一倍で、遠慮なんてしようものなら怒りの鉄拳をかまされる。
「おい、涼平!!」

病室のドアがドンドン、バンと勢いよく音を立てて開く。
「大丈夫か?」
織原だ。成瀬もいる。二人共息を切らしながら俺の方に歩み寄る。
「お前ら、面会時間はもうーー」
「そんなこと言ってられるかっての!」
成瀬が声を張り上げて言った。
「悪い、俺が誘ったばかりに……」
織原が声を落とす。
「いやいや、織原。俺が飲みすぎてコケただけだから。そこに運悪く暴走車が突っ込んで来たってだけだから。俺の自業自得」
「でも……」
「いいから。もうこの件については姉貴が相手に話つけてくれてさ。何とかなりそうだから気にするなよ」
姉貴が俺を轢き逃げした少年を特定して、ってとこまで持っていったのは奇跡に等しい。結構遅くまで飲んで歩いていたら、頭のネジが緩んだような奴らがあちこちに点在する。俺もその一人にカウントされるほど、今日はつい調子に乗ってビールや焼酎を何杯か飲んでしまった。酒類はそんなに強くないというのに。