「涼平! 涼平!」

もう、何も見えない。

姉貴の嗚咽混じりの声が聞こえてくる。


そういえば、梨歩へのプレゼント。
姉貴は届けてくれただろうか。

せめて最後くらいは、直接会って渡したかった。
こんな回りくどいことまでしたくなかった。

それでも、梨歩には生きていてほしい。

俺のせいで、心臓に負担をかけたくない。


本当はどうすればよかったのかなんて、わからない。

(はた)から見れば、俺のやってることはただの独りよがりだろう。

それでも。


それでも俺は。

梨歩を死なせたくなかった。


梨歩には、生きていてほしい。


たとえ、この先俺がいなくなっても。


何度も微睡むように、ぼんやりとした最期の景色が俺の僅かな視界に映る。
音だけは鮮明に聞こえるのに、意識は次第に遠ざかる。

うるさいくらいの心臓の鼓動でさえ、徐々に勢力が落ちていく。
俺の人生(じかん)の終りが近いことを告げるように。


「おい、柴ヤン!」
森嶋。

「シバ! 聴こえるか!?」
松岡。

来てくれたのか。


「アホが! 事故った言うから見舞い来たら今度は末期の癌て! ふざけるのも大概にせえよ! お前まだあの子に会いに行ってへんやろ! 這ってでも今すぐ会いに行けや! 何が危篤やねん! ホンマしばくぞ! なあーー 」
「おい森嶋、落ち着けって」
「落ちついとれるか! お前がおらんようになったらあの子はどうなるねん! 初めて本気で好きになった子なんやろ? そんな大事な子をこれ以上に悲しませるようなことするんか! あの子を置いて死ねるんか!」

もう、彼らの声しか聴こえない。涙声の、時折裏返った森嶋の声がやけに沁みる。


俺だって、死にたくない。今すぐにでも、梨歩に会いに行きたい。這ってでも。


「……、……」

身体のあちこちが痛い。吐きそうなくらいの痛みなのに、全く力が入らない。声すらも出せないなんて。