やりたいことはいくつもある。

行きたいところもある。

もっと二人の時間があるとすれば、泊りがけで旅行に行ったり、梨歩のライブも見てみたかった。
一度も叶わずここまで来てしまったのは、運命のいたずらとしか思えず、悔しさで視界が滲んだ。

俺の命はあと僅か。それを肌で感じるようになってきてしまっていた。

梨歩に会いたいのに、会いに行けない事が悔しすぎて。
せめてあの事故に巻き込まれなければ。


恨めしい記憶が蘇る。

でも、今更どうすることもできない。

そもそも、この病は怪我とは全く関係ない。それに、今回の怪我入院がなければ、俺は自分の病に気づかずもっと早くに死んでいたかもしれない。

それでも、梨歩に一目会いたい思いが消えることはなかった。

会いたい。でも、今の俺を見れば、却って梨歩を不安にさせてしまうことは明白だ。
だから、ビデオ通話すらする勇気がなかった。

どうすればいい?


迷い。葛藤。不安。恐怖。

どの感情と向き合うべきか分からず、途方に暮れる毎日。

まして、余命宣告まで受ければ尚更。やり場のない感情が、いつどのタイミングで暴走してしまうかと思うと、気が気ではない。

こんなことになるなら、帰省なんてしなければよかったのか。

飲み会なんて行かなければ。

大学の簡易な健康診断に頼らず、人間ドックとかもっと精密な検査を自主的に受けていれば。


答えが見えない。


わからない。


でも、導き出したところで、受け入れられただろうか。


今の俺に与えられた答えの一部は、末期の癌で余命幾許もないことだ。


それについては理解し、ある程度受け入れたつもりだ。


それでもなお、払拭できない感情があるとすれば、“未練”や“後悔”だ。

これを完全に消し去ってこの世から去れる人なんて、いないのではないか。

死についてこんなにも深く考えることは、恐らく以後もうないだろう。

こんなにも早くその時が訪れるとは夢にも思わなかったし、健康体であればあるほどその認識からは程遠くなる。

やり残した事がないと言えば大嘘になる。

でも、やり残したままこの世から消える可能性が極めて高い今、悠長なことは言っていられないのが本音だ。

だったらせめて、これだけは成し遂げておきたいことを始めよう。



「今の俺にできること……」


俺にしか、できないことを。



余命宣告の日まであと2週間。俺はある決断をすることにした。