「姉貴か?」
俺は姉の律子に電話をかけた。
〈涼平? どうしたん、急に〉
姉とは5歳年が離れており、幼い頃から俺の面倒をよく見ては、近所の悪ガキにいじめられて泣いている俺の代わりに悪ガキに反撃し泣かせて帰って来るような姉だった。
俺よりも強くて頼りがいがある、The姉御だ。
「ちょっと頼まれてほしいことがあって」

初めてだった。こんなにはっきりと姉に頼み事をするなんて。
〈何? 珍しいね。彼女にプロポーズでもするん?〉
「いや、俺まだ学生やし。あ、でも……。それに近い、かも」
〈えー! 本気?〉
「まあ、それなりに。というか、かなり」
〈今まで女の子の影すらなかったのに。長すぎた冬がようやく終わったって感じ?〉
「俺の人生終わったみたいな言い方するなよ。まあ、実際終わろうとしてるからあながち間違いではないけど」
これは笑えない冗談だ。返しをミスったか。何となく気まずい空気が流れる。
〈あんた、それ自分で言っちゃう? まさか病院からあんたの余命宣告受けるとは夢にも思わなかったけどさ。で、頼みって何なん?〉

「20歳前後の女の子が好きそうなジュエリーブランドって、わかる?」
〈え、彼女に聞かんの?〉
「いや、それ聞いたらサプライズにならんかなって」
〈いや、好みは人それぞれやし、明らかに趣味じゃないのもらって動揺されるくらいなら聞いてから決めたほうがいいと思うけど。つか、サプライズにする必要あるん?〉
「いいから。とにかく急ぎで」
梨歩が気にいるかどうかはわからない。でも、何か形にして送りたかった俺は、「彼女へのプレゼント=指輪」と短絡的かもしれないが、本気でそう思っていた。
そうと決まれば、善は急げ。
俺はまずネットで検索をかけ、ショップの情報や口コミサイトを見漁った。

まず、今の俺の身体ではショップにすら行けない。
梨歩に似合いそうなデザインのものを片っ端から調べる。

「……それにしても」


種類が多すぎる。

完全にナメていた。こんなに豊富なデザインから一つを得られと言われても、選びきれない。

世の男性は、どうやって選んでいるのだろう。

やっぱり、サプライズなんてややこしいことせずに単刀直入に好みを聞いてからのほうが確実か。


「……」

早くも挫折しそうだ。

でも、サプライズは一度はやってみたい。

たとえスベっても。


いや、梨歩のことだからきっと笑って受け取ってくれるはず。


どこかでそれを期待していた。だからこそ、自己満かもしれないが俺自身のささやかな夢を叶えたい。

俺の先は短い。
おそらく梨歩よりも。

思い残すくらいなら、盛大にやってコケたほうが潔い。

姉貴には引かれたが、俺は俺の意のままに計画を進めた。

できる限りのことは全てやりたい。


その思いだけで、俺は残された僅かな命を奮い立たせていた。
平凡で味気なかったごく普通の人生が、今となっては手放すのも惜しいと思える。
それくらい、俺はまだ生きたいのだと悟った。

俺のために。

何より梨歩のために。