「姉貴か?」
俺は姉の律子に電話をかけた。
〈涼平? どうしたん、急に〉
姉とは5歳年が離れており、幼い頃から俺の面倒をよく見ては、近所の悪ガキにいじめられて泣いている俺の代わりに悪ガキに反撃し泣かせて帰って来るような姉だった。
俺よりも強くて頼りがいがある、The姉御だ。
「ちょっと頼まれてほしいことがあって」

初めてだった。こんなにはっきりと姉に頼み事をするなんて。
〈何? 珍しいね。彼女にプロポーズでもするん?〉
「いや、俺まだ学生やし。あ、でも……。それに近い、かも」
〈えー! 本気?〉
「まあ、それなりに。というか、かなり」
〈今まで女の子の影すらなかったのに。長すぎた冬がようやく終わったって感じ?〉
「俺の人生終わったみたいな言い方するなよ。まあ、実際終わろうとしてるからあながち間違いではないけど」
これは笑えない冗談だ。返しをミスったか。何となく気まずい空気が流れる。
〈あんた、それ自分で言っちゃう? まさか病院からあんたの余命宣告受けるとは夢にも思わなかったけどさ。で、頼みって何なん?〉

「20歳前後の女の子が好きそうなジュエリーブランドって、わかる?」
〈え、彼女に聞かんの?〉
「いや、それ聞いたらサプライズにならんかなって」
〈いや、好みは人それぞれやし、明らかに趣味じゃないのもらって動揺されるくらいなら聞いてから決めたほうがいいと思うけど。つか、サプライズにする必要あるん?〉
「いいから。とにかく急ぎで」