「なーぎーっ!」
授業終了のチャイムが鳴り始めると、教室の後ろからバタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「飯食いに行こ!」
「いいけど、弁当忘れたの?」
「髪のセットに時間かかってさ、バタバタしてたら持ってくの忘れた」
自身の茶色い毛髪を指差し、あははと白い歯を見せて笑った男子。
彼は佐倉 理桜。小学生時代からの仲で、今年で12年目の付き合いになる友人。
つい先日梅雨入りしたばかりで、大半の人なら気分が滅入ってしまいそうだが、出会った頃から変わらず、元気でお調子者な性格なんだ。
洗い場で手を洗った後、弁当箱と水筒を入れたバッグを持って食堂へ足を運ぶ。
「おーい! 理桜ーっ、凪ーっ」
「あっ、桃士!」
空席を探していると、奥の席に男子2人が座っているのを見つけた。彼らの元に向かう理桜の後を追う。
「お前も来てたのか〜! って、鋼太郎もいたのかよ! 珍し! そっちも弁当忘れたの?」
「あはは、違うよ〜。今日お母さんの具合が良くなかったから作れなかっただけなんだよ」
「マジ? 大丈夫なの?」
「……心配ないから、まず座れ。通行人の邪魔だ」
モゴモゴする口元を手で隠して注意をした少々気難しそうな顔の男は、生徒会長の木橋 鋼太郎。
そんな彼の前に座るのは、ふにゃふにゃした笑顔と穏やかな口調が特徴的な長峰 桃士。
彼らとは高1の頃からずっと同じクラスで、席もお隣さんである。
「ごめーん! んじゃ、お邪魔しますねっ」
「おい、なんでこっちに来るんだよ」
「えっ、お前が座れって言うから……」
「言ったけど隣とは言ってないだろ。長峰のところに座れ」
「ごめん鋼太郎。俺もうこっちに座った」
桃士の隣に座って謝ると、理桜の口角がにんまりと上がった。
「ってことで、今日は俺が隣な♡ 会長♡」
「馬鹿っ、近づくな! 公共の場だぞ!」
弁当箱を開けつつ、いちゃつく2人を桃士と一緒に微笑ましい目で眺める。
見ての通り、全員個性が強く異なった性格。だけど、顔を合わせると毎回何らかの話をしている。まぁ、イツメンってやつだ。
食事を終えて教室に戻り、スマホを確認すると、水泳部のグループチャットから通知が届いていた。
送信者は顧問の淡井先生。どうやら奥さんが体調を崩してしまい、心配なので今日は直帰するとのこと。
マジか。でも、病人を長い間1人にはできないよな。先生の家、奥さんと2人暮らしだから子どもいないし。
「それなら……」
◇
「あれ⁉ 浅浜先輩じゃないですか!」
「今日は水泳部じゃなかったんですか?」
「急に休みになって。ちょっと覗きに来た」
放課後。部活が休みになって時間が空いたため、代わりに美術室に足を運んだ。
俺が来るとは思っていなかったのか、出迎えてくれた女の子の目が丸くなっている。
他の部員達も、一見集中しているが、顔は少し強張っており、戸惑いの色を隠せていない。
毎週火曜日にしか来ない人間が休日明けに来たら、そりゃ誰だってビックリするよな。
「何か手伝えることある? 今日道具持ってきてないからさ」
「いいんですか⁉ それなら、絵のモデルになっていただけませんか? ちょうど今からデッサンしようと思ってたところなので!」
「了解。どんなポーズ取ればいい? 海老反りとか?」
「いえいえ! 座ってるだけで大丈夫ですよ!」
承諾すると、みんな話を聞いていたのか、席を立って一斉に机と椅子を動かし始めた。表情は硬かったけど、嫌がられてなかったみたい。
ホッと胸を撫で下ろし、教室に入る。
「先輩! 準備できました!」
荷物を下ろしている間に移動が完了した様子。肩と首を回して体をほぐし、部室の中心へ。四方八方から視線を浴びながら椅子に座り続けた。
2時間後、最終下校時間の6時に。
小雨が降る中、自転車で帰路に就いた。
「ただいま」
「おお、凪くん。おかえり」
濡れたスクールバッグをタオルで拭いていると、祖父がやってきた。
「もうご飯できてるみたいだよ」
「ん。分かった」
「それと、学校からお届け物が来てたよ。リビングに置いてるからあとで持っていってね」
「はーい」
返事をして洗面所に向かい、手を洗ってタオルをかごの中に入れた。
お届け物か。多分こないだ注文したやつかな。
先に回収するため、荷物を持ったままリビングに入った。
「ただいま」
「おかえり。パンフレット、届いてるわよ」
「ん」
フライパンを洗う母に短く返し、視線をたどる。
ダイニングテーブルの上に用意された和食セット。その隣に、A4サイズの封筒が低い山を作っている。
……今日は2校か。
「それで、あといくつ届くの?」
シンクから流れ出る水が止まり、同時にスクールバッグに封筒をしまう手も止まる。
「いくつって、何が」
「パンフレットに決まってるでしょう。今月に入ってから毎日のように届いて……あなたいくつ注文してるの」
耳に飛んでくる声に顔をしかめつつ封筒をしまう。
「家族が家にいるからって、いつでも受け取れるわけじゃないんだから。お母さんもおじいちゃんも忙しいのよ?」
「うるせーな」
最後の1つを乱暴に突っ込み、ドアに八つ当たりするようにして部屋を出た。
マジあり得ない。帰ってきて即説教って。こっちは部活終わりで疲れてるというのに。俺だって受験生なんだから忙しいんだよ。
授業終了のチャイムが鳴り始めると、教室の後ろからバタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「飯食いに行こ!」
「いいけど、弁当忘れたの?」
「髪のセットに時間かかってさ、バタバタしてたら持ってくの忘れた」
自身の茶色い毛髪を指差し、あははと白い歯を見せて笑った男子。
彼は佐倉 理桜。小学生時代からの仲で、今年で12年目の付き合いになる友人。
つい先日梅雨入りしたばかりで、大半の人なら気分が滅入ってしまいそうだが、出会った頃から変わらず、元気でお調子者な性格なんだ。
洗い場で手を洗った後、弁当箱と水筒を入れたバッグを持って食堂へ足を運ぶ。
「おーい! 理桜ーっ、凪ーっ」
「あっ、桃士!」
空席を探していると、奥の席に男子2人が座っているのを見つけた。彼らの元に向かう理桜の後を追う。
「お前も来てたのか〜! って、鋼太郎もいたのかよ! 珍し! そっちも弁当忘れたの?」
「あはは、違うよ〜。今日お母さんの具合が良くなかったから作れなかっただけなんだよ」
「マジ? 大丈夫なの?」
「……心配ないから、まず座れ。通行人の邪魔だ」
モゴモゴする口元を手で隠して注意をした少々気難しそうな顔の男は、生徒会長の木橋 鋼太郎。
そんな彼の前に座るのは、ふにゃふにゃした笑顔と穏やかな口調が特徴的な長峰 桃士。
彼らとは高1の頃からずっと同じクラスで、席もお隣さんである。
「ごめーん! んじゃ、お邪魔しますねっ」
「おい、なんでこっちに来るんだよ」
「えっ、お前が座れって言うから……」
「言ったけど隣とは言ってないだろ。長峰のところに座れ」
「ごめん鋼太郎。俺もうこっちに座った」
桃士の隣に座って謝ると、理桜の口角がにんまりと上がった。
「ってことで、今日は俺が隣な♡ 会長♡」
「馬鹿っ、近づくな! 公共の場だぞ!」
弁当箱を開けつつ、いちゃつく2人を桃士と一緒に微笑ましい目で眺める。
見ての通り、全員個性が強く異なった性格。だけど、顔を合わせると毎回何らかの話をしている。まぁ、イツメンってやつだ。
食事を終えて教室に戻り、スマホを確認すると、水泳部のグループチャットから通知が届いていた。
送信者は顧問の淡井先生。どうやら奥さんが体調を崩してしまい、心配なので今日は直帰するとのこと。
マジか。でも、病人を長い間1人にはできないよな。先生の家、奥さんと2人暮らしだから子どもいないし。
「それなら……」
◇
「あれ⁉ 浅浜先輩じゃないですか!」
「今日は水泳部じゃなかったんですか?」
「急に休みになって。ちょっと覗きに来た」
放課後。部活が休みになって時間が空いたため、代わりに美術室に足を運んだ。
俺が来るとは思っていなかったのか、出迎えてくれた女の子の目が丸くなっている。
他の部員達も、一見集中しているが、顔は少し強張っており、戸惑いの色を隠せていない。
毎週火曜日にしか来ない人間が休日明けに来たら、そりゃ誰だってビックリするよな。
「何か手伝えることある? 今日道具持ってきてないからさ」
「いいんですか⁉ それなら、絵のモデルになっていただけませんか? ちょうど今からデッサンしようと思ってたところなので!」
「了解。どんなポーズ取ればいい? 海老反りとか?」
「いえいえ! 座ってるだけで大丈夫ですよ!」
承諾すると、みんな話を聞いていたのか、席を立って一斉に机と椅子を動かし始めた。表情は硬かったけど、嫌がられてなかったみたい。
ホッと胸を撫で下ろし、教室に入る。
「先輩! 準備できました!」
荷物を下ろしている間に移動が完了した様子。肩と首を回して体をほぐし、部室の中心へ。四方八方から視線を浴びながら椅子に座り続けた。
2時間後、最終下校時間の6時に。
小雨が降る中、自転車で帰路に就いた。
「ただいま」
「おお、凪くん。おかえり」
濡れたスクールバッグをタオルで拭いていると、祖父がやってきた。
「もうご飯できてるみたいだよ」
「ん。分かった」
「それと、学校からお届け物が来てたよ。リビングに置いてるからあとで持っていってね」
「はーい」
返事をして洗面所に向かい、手を洗ってタオルをかごの中に入れた。
お届け物か。多分こないだ注文したやつかな。
先に回収するため、荷物を持ったままリビングに入った。
「ただいま」
「おかえり。パンフレット、届いてるわよ」
「ん」
フライパンを洗う母に短く返し、視線をたどる。
ダイニングテーブルの上に用意された和食セット。その隣に、A4サイズの封筒が低い山を作っている。
……今日は2校か。
「それで、あといくつ届くの?」
シンクから流れ出る水が止まり、同時にスクールバッグに封筒をしまう手も止まる。
「いくつって、何が」
「パンフレットに決まってるでしょう。今月に入ってから毎日のように届いて……あなたいくつ注文してるの」
耳に飛んでくる声に顔をしかめつつ封筒をしまう。
「家族が家にいるからって、いつでも受け取れるわけじゃないんだから。お母さんもおじいちゃんも忙しいのよ?」
「うるせーな」
最後の1つを乱暴に突っ込み、ドアに八つ当たりするようにして部屋を出た。
マジあり得ない。帰ってきて即説教って。こっちは部活終わりで疲れてるというのに。俺だって受験生なんだから忙しいんだよ。