ロールパンを食べながら陽は言った。

今日は日曜日。
私も陽も休みだ。
といっても、毎回予定を決めないでお互いのやりたいことを一緒にして一日を過ごす。

「悩ましいね。映画でも見る?」
「なんか観たいのあんの?」
「……ないね」

暫く考えて「ああ、そうだ」と陽が何か思いついた声を出す。

「久しぶりに図書館行きたいな。この間、槭にオススメしてもらった本があるかもしれない」
「いいね。なくても近くに本屋もあるし、見つかるかも」

私もついでに欲しかった本を買ってしまおうかと考えていると、陽は首を横に振った。

「違うよ。そっちの本屋じゃなくて」
「他の場所?」
「中二の頃、俺と槭が使ってた図書館」

一瞬で、あの頃の記憶が頭の中を駆け巡った。
まだちゃんと思い出せる。
忘れまいとしていた記憶。

「槭?」

懐かしさと覚えていたことへの嬉しさで陽の声に反応できず、聞こえた声にハッとした。

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「寝起きだからなぁ。俺もまだフワフワする」

そう言ってあくびにをする。
つられて私もあくびをして「あくびってうつるよね」と二人で笑った。

結局、私はお風呂に入って掃除や洗濯物などのやることを終わらせてからあの図書館に行くことになった。

「なんか……小さくなってね?」

久しぶりに来た図書館は、どうやら市役所を新しくするときに利用者が減ったりの理由で規模を小さくしたとか。

それにしても小さい。
これが成長したから小さく見えているのなら、私も陽もあの頃とはまた違う人間になったってことなのかな。

「よしっ。探すかぁ」

幸せ空間への入り口、自動ドアを通って中に入ると肌寒い外とは打って変わって寧ろ暑いくらいに暖房が効いていた。

「私も一緒に探す」
「ん?いいよ。槭は槭で読書楽しんでろ」

ニコッと笑って文学のコーナーへ行ってしまう。
私も特に追いかけたりせずに自分の好きな本がありそうなコーナーへ向かった。

陽の求めている本はおおよそ見当がつく。
アメリカやイギリス、ドイツといった外国の文学。
私が日本文学派なのに対して陽は外国文学派。
陽は言語を学ぶのが好きらしく今では翻訳家として働いている。
留学していた時期に向こうで本を読んで翻訳以上に日本と違う魅力に惹かれたらしい。
私は日本語に翻訳されたものを読んでも微妙に物語とずれているような日本語の表現にモヤモヤして集中できないからあまり読んでこなかった。