家に着いた頃には時計の針が深夜二時を指そうとしていた。

「ただいまぁ」

シャワーを浴びる気力も着替える体力も残っていない。
明日の朝に諸々のことをすればいいかと寝室に入り、ベッドにダイブする。

クイーンサイズのベッドにフワフワの羽毛布団。
隣には成長して凛々しさを得た陽。

少し大きいベッドは二人が寝ても余裕があるが、もぞもぞ陽に近づいてみる。

社会人三年目に一緒に住み始め、同棲期間は今年で二年目。
たまに喧嘩もするけど、大抵次の日にはどちらかが謝って仲直りする。
仕事が辛くても陽がいる家に帰るためなら頑張れる。

「ん……」

寝顔を盗み見ていると陽が起きてしまった。

「槭……?帰ってたんだ」
「今帰ってきた。ごめんね、起こして」
「んー……なんか槭あったかい……」

そういって抱きしめてくる陽はゆっくり目を閉じて一瞬で寝た。
身動きが取れずとも陽の温もりで私も眠りに落ちていく。

夢を見た。
子どもの頃によく見ていた夢。

白い部屋に幼馴染の皆と中学二年生の頃の私。
私は泣いていたけれど、どこからか物体に亀裂が入る音がした。
暫くその音は鳴り続け、止んだと思ったら白い部屋の一枚の壁は崩れ、そこには同じく中学二年生くらいの幼馴染と一歩前に出た陽が手を差し出していた。
躊躇う私を押したのは、幼い六歳くらいの姿をした幼馴染。
覚悟を決めた私は陽の手を取り、背中を押してくれた小さな友達は粒子となって光色に輝く結晶になり私の手へと辿り着く。
それを抱えた私は皆と歩いていった。

そんな"あの日"を夢に見た。

気がつくと既に日は昇っていて隣には陽がいなかった。
体を起こし、リビングに行くと陽は朝ご飯を作っている。
ちなみに、朝ご飯は朝に強い陽が担当で何もない日の夜は私担当だ。

起きてきた私に気がつき、手を止めて笑いかけてくれる。

「おはよ」
「おはよぉ」

リビングに置いてある大きなソファに座って寝室から持ってきた布団を被った。
朝が冷え込むようになって新調したかけ布団はモフモフで離しがたい。

「布団被りの槭さーん。卵焼きか目玉焼きどっちがいい?」
「卵焼きー」
「はいよ」

陽が準備してくれた、だし巻き玉子と食パン。
大好きなりんごジャムを塗ってパンにかぶりつく。

「予定の時間まで何するか」