「槭さぁん」

三歳年下の後輩は今にも大泣しそうな顔をしてお酒を飲み、仕事が多忙すぎると愚痴を吐いた。

「もぉ無理れぇす」

今は他部署になってしまったけれど、たまにこうして飲む仲。
前から仕事に責任を持って

夏菜(なな)ちゃん、昔から色々背負いすぎなんじゃない?」
「だってぇ私がやんないと仕事が進まないんですよぉ」

とうとう泣き出してしまった夏菜ちゃんにハンカチと水を置く。

「夏菜ちゃん、飲み過ぎだよ」
「飲まないと憂さ晴らしもできませぇん」

仕事ばかりの彼女はストレスをお酒を飲むことでどうにかしている。
このままじゃ、アルコール依存症まっしぐらだ。

でも、そうしてしまいたい気持ちはよくわかる。
子どもの頃に想像していた通り、社会は厳しく身体的苦痛に苛まれることは少なくない。
アルコールや食などでそれらを解消しようとして抜け出せなくなる人は少なくないかもしれない。

「夏菜ちゃん。仕事頑張ってストレス溜めてさ、周りに何か見返りをもらったことある?」
「……ないですね。皆自分優先なんだもん。私の事なんていい押しつけ役としか思ってないですよ」
「それなら、もういいんじゃない?夏菜ちゃんはよくやってるよ。それをまともに見ない他人にいいように利用されるなんて、今の夏菜ちゃんはそんな人達に押しつぶされるくらい頑張る必要ない」

一度泣き止んだはずの後輩の目から又もや滝のような涙が溢れ出る。

「槭さぁん!」

夏菜ちゃんは首を絞める勢いで抱きしめてきた。

居酒屋ということもあって周りも酔っ払いで騒がしい。
夏菜ちゃんが騒ごうが周囲から発せられる騒音の方が大きく、特に注意されることはなかった。

「私、部署移動したい。槭さんと働きたぁい!」

あははと苦笑しつつ、この調子では終電に間に合わないかもしれないと夏菜ちゃんに肩を貸しながら会計を済ませる。

「夏菜ちゃん、歩ける?」
「んー何とかぁ」
「家まで送るよ。タクシー呼んだから座らず待ってて」
「はぁい」

スマホで呼んだタクシーに夏菜ちゃんを乗せて家の前まで来たが、フラフラの彼女を家の前で見送るのは憚られ、家の中まで送り届けた。

ちゃんと鍵を閉めさせて一段落着き、自分の家を目指す。