「迷惑かけてもいいって。迷惑をかけて、かけられてお互い学ぶんだよ。そういうのも人間関係の一部じゃねぇの?」

陽はもう一度、保育園のアルバムの最後のページを開いて私に見せた。

「それに、槭はちゃんと自分の思いをコントロールできてるよ。じゃなかったら多分、皆ここに来てない。危害を加えられそうな相手に自分から近づかない。俺は皆を集める時に槭の名前しか出してない。それなのに皆が集まったってことはそれだけ信用されてるってことだ。それこそ制御できてるっていう証拠じゃん」

「すごいよ」と陽は私を見た。
さっきまでの暗い表情とは真逆に人を惹きつける陽だけの笑顔を浮かべて。

「あとさ、誰かを強く想うってそんなに悪いことじゃないだろ」

真っ向から私の考えが否定された気がした。
ただ、嫌な気はしなくて、寧ろ思い悩んでいたことがその一言でぽろぽろ崩れていくようだった。

「想うことが悪いって言うなら俺も悪い奴だな。世界中の人間の大多数も悪い奴になる」
「な、なんでそうなるの」
「だって、誰かを好きになったり大切だって思うこと一度はあるだろうから。俺も絶賛恋愛中だし」

顔に熱が集中する。
それを本人の前で言うのは恥ずかしくないんだろうか。

暗い話をしていたはずなのに陽の言葉一つ一つが明かりになって重かった空間を照らす。

「想い方も、大きさも、重さも人それぞれ。個性と同じだ。それは自由であっていい。例でいうと恋愛かな。同性を好きになるのは悪いことじゃない。色んな想いの形がある。誰が誰を好きになっても誰も咎めたり、否定することはできない。槭みたいに上手くコントロールできないと事件とかになる可能性もあるけど……」

「あれは本人に常識ってものを知ってもらわなきゃいけないんだよな」と難しい顔をした。

色んな大人が言う"同じ人なんて一人もいない"。
それは個性や性格だけではなく、想いの形も指していたのかもしれない。

「何億人って人がいると色々複雑に絡み合うけど、その中で流されながら、もがいて大人になっていくんだろうな」

まだたったの十四年。
人生百年時代ともいわれる今、私達は百の約七分の一しか生きていない私達。
いつ死ぬかはわからずとも、それまでの間に遊び、学び、人間関係を築き、自分の中にも様々なものを育んで必死に生きていく。