私達は約八年もの間、すれ違っていた。
互いを想い過ぎて、後に自分の抱く苦しみをわかっていながら相手を優先した。

本当の気持ちというのは言葉無くして伝わるわけがない。

想うことで会話をすることは愚か、相手に近づく勇気を私達は持てなかった。

「里緒奈、は本当に私を、想ってくれてたの?」
「勿論。というか、当たり前と言いたい。私は槭のこと、親友だって思ってるから」

「親友を想うのは当たり前でしょ?」と里緒奈は笑った。

心にぽっかり空いていた場所にぴったりと何かが埋まったようだった。
ただただ満たされた感覚。

「あ……槭はそう思ってなかった?」

里緒奈の不安そうな表情に焦るが、いったん自分を落ち着かせる。
大切なことを、焦ってサッサと言い終わってしまうのは嫌だった。

ゆっくり、心からの言葉を。

「っ……ううん。私も里緒奈のこと、今までもこれからも、最高の親友だって思ってる」

涙が出そうだったけれど、ぐっと堪える。
視界がぼやけて里緒奈の表情が見えないのは勿体ない。
ちゃんと見ていたい。

「私、リオナに言われたこと真に受けて里緒奈は私をもう、親友なんて思っていないのかと思ってた。ここにいる皆の他にも友達を作っていたし、その中の誰かの方が、大切に思うように、なったのかなって」
「リオナの言ったこと全部、出鱈目。そんなこと一度も言ってない」

里緒奈は私の手を取った。
あの日の私の傷心を包み込むような優しい手。

そして、ずっと私を縛っていたリオナの言葉の鎖から解き放してくれた。

「槭が心配することは何一つない。だから、もう……リオナの言葉に縛られないで。自分を犠牲にしなくていい。人と関わっていい。人と話すのを怖がらなくていいんだよ。槭を良く思わない人がいるのならその人とは最低限、お互いに支障のない程度の距離を持って接すればいい」

私を、夢に見るあの白い部屋に縛り付けていた鎖が一つ、切れた。
里緒奈が鎖についていた南京錠の鍵を見つけてくれた。

ゆっくり、私の手を握っていた里緒奈の手は私を抱きしめる。

心地よくて、何もかもを受け入れてくれるような大きな温もりにほっとした。

すると、今まで静かに遠くから何も知らないふりをして見ていた皆は我慢できなくなったのか、皆して抱擁し合う私達を抱きしめてきた。

「うわあぁぁぁ。槭ぇぇ里緒奈ぁぁ」
「何!?どうしたの皆!?」
「く、苦しい……」

中央にいる私達は全方向から押しつぶされ、息がぎりぎりできる程度。
身長が比較的低い子高雅や柚希なんて自分から来たのに他の人につぶされてジタバタしてる。

「いったんみんな離れて!」

里緒奈の叫びに外から手を離していき、リビングにできた団子はバラバラになった。

「死ぬかと思った……」
「あははっ。びっくりしたぁ」