「そんな、綺麗に?」
「実はね、陽太が……もがっ」

何かを言おうとしていた里緒奈の口を抑えて「里緒奈ー?」と見たこともない怖い笑みを浮かべている陽。

「は、陽?」
「今のは気にしなくていい」
「え……うん」

陽の手から逃れて舌をペロッと出した里緒奈は陽が見てないのをいいことにニヤニヤしている。
陽が後ろを向いたら確実に嫌な思いをするだろうな。
案の定、視線を感じたのか後ろを振り向いた陽にほっぺを抓られていた。

「槭」

里緒奈を逃がし、ほっとしている私の頭を陽は私の名前を呼びながら撫でた。

「良かったな」

たった一言に沢山の意味が詰まっているのを感じる。
優しくて、温かくて、心が満たされる感覚。

全国に散り散りになった幼馴染を一か所に集めるのがどれだけ大変だったのか想像もつかない。
なのにその苦労を滲ませず、あの包み込むような明るい笑顔を見せてくれる。

それなら私も笑いたい。
精一杯のありがとうを込めて。

「うんっ」

何故か頭を撫で続ける陽にとっての親友、高雅と泣き虫な印象の強い慶が陽に肩を組み、私を見て苦笑いした。

「俺、熊本から来たんだからな!?父さんがまだこっちにいるおかげでどうにか母さんの許しもらったんだよ」
「俺は岩手。教師が休みの間って学校開いてないから部活なくて助かった」

熊本は九州地方、岩手は東北地方とは真逆に近い。
一方で日本の首都、東京に住む里緒奈と古都、京都に住む愛良。

「私、東京。田園調布」
「いいなぁ、東京。私は去年に京都に引っ越したからさ。推しのライブとか東京でやるところ多くて困る」
「京都!?社会の授業でやったんだけどさ、建物低いってホントなの?」
「一部はね。学校では標準語で話すとなんか笑われたりするけど、町中はまぁ歩いてて面白いよ。歴史感じる」

その流れに乗って神奈川に住んでいない者はそれぞれ今、自分の住んでいる地域について話し始めた。
私を含め、今もここに住んでいる者達のほとんどは行ったことのない地域の話に興味津々だ。

「僕、愛知だよ。名古屋」
「私、広島」
「里緒奈と同じ東京」
「千葉」
「去年までベルギーにいた」

欣人が口を開くと違う県の学校に通っている子達はみんなして「ベルギー!?」と驚いた。
私の通う学校では既に知られていることだから、そこまで驚くのかと逆に私が驚かされる。
メールでグループを作っていても頻繁に何かを話すわけではないみたい。

「年少くらいの時から行ってたんだっけ。学校とかどんな感じなの?」
「多分日本より休みが長い。一週間くらいの時もあった」
「ずる!何がどうなってそんなに休むんだよ」
「あと、成績悪いと留年する」
「小学校から!?」

色んな地域の生活を聞いていると、やっぱり違う場所で生活していたんだなと皆がここにいる事実が上手く呑み込めない。