「よく言われる。目は母さんに似てるけど、全体的に見たら父さん似だって。でも、性格は似てないってさ」
「お父さん、静かな方だよね」
「そ、ほとんど話さない。その分、感情が表に出やすいんだよな。怒ってるときなんてオーラが真っ赤」

ということは、喜んでいる時はピンクなんだろうか。
想像してちょっと似合わないけど寡黙な人のオーラがピンクなのは可愛いかも、と思った。
きっと、ギャップってやつだ。

「……槭はうるさい奴と静かな奴だったらどっちの方がいい?」
「え?」

極端な二択に悩む。
結局、うるさいうるさくない関係なく一緒にいて楽しい人といたい。

「一緒にいていい、と思う人、がいい。静かでもうるさく、てもどっちでも」
「……いいな、その答え」
「答えに、なってる?」

陽が頷く。

「槭らしい」

今の答えのどこに私らしさを感じたのかわからないけれど、何となく嬉しい。

そして、再び沈黙が訪れる。
が、次の沈黙を破ったのは私でも陽でもなかった。

ピコンッ。

陽の持っているスマホが通知を知らせる音。
陽がポケットからスマホを取り出して確認する。
そして、立ち上がりコップをテーブルに置いて玄関へ向かった。

「陽?」

宅配ならインターホンを押す。
通知を見て玄関へ向かうなんて、何をする気なんだろうと思わず声をかける。

「槭。目、瞑ってて」

目、瞑ってて?

「なんで?」
「いいから」

目を閉じてと言うのにこっちを見ず、ドアノブに触れたまま扉を開けようとはしない。
今日の陽は挙動不審だ。
このままでは陽が一向に動かない気がする。

私は言われた通りにして「目閉じたよ」と一応声をかける。

「いいって言うまで開いたら駄目だからな」
「うん」

見えないそこで何が起きているのだという恐怖と興奮が混ざり合う。
テレビで見るようなサプライズを受ける人はこんな気持ちなんだろうか。

ドアを開ける音がした。
上手く聞き取れないほど小さい声で誰かと話してるのがわかる。

「…ひ…しぶ……」

何人かの足音と声が近づいてきてる。

近づいてるとなると五分五分だった恐怖と興奮のうち恐怖が一気に増えた。
でも、そこに陽がいるのなら大丈夫だろうと増える恐怖を落ち着かせる。

「槭」

陽ではない誰かが私の名前を呼んだと同時にその人と思われる手で目元が覆われる。

「だーれだ」

聞いたことのある、忘れるはずのないフワフワした優しい女の子の声。
記憶の中ではいつも笑いかけてくれるあの子の声としか思えなかった。