今図書館に行けば陽のあえるだろうかとか思って、でも明日は話があるのだから変に会っても陽の気を紛らわせてしまうかもと走り出したい衝動を押さえつけた。

そうやってどうにか耐えた二日間が終わり、迎えた一月四日。

昨日、確認できなかった陽からのメールは私を困惑させた。

[明日の午後一時、俺の家に来て]

全く意図がつかめなかった。

悪い話だと思っていたが、わざわざ陽の家に行く必要があるか。
外で話しても私は何も思わない。
そうすると、陽にとって聞かれたくない内容?
それってどんな話なんだろう。

昨日まであまり考えないように努力していたのに心に渦巻くモヤモヤは勢力を拡大している。
私の心が荒れ始めた。
何かが喉を塞いでお昼ご飯もまともに食べられないほどに心中穏やかではなかった。

「じゃあ、行ってきます」

行く前にバシンと頬を叩いて覚悟を決める。

外に出た瞬間、強風に体がよろめいた。
冬の風ということもあって冷たい。
マフラーに手袋、コートを羽織って冬の重装備で出たつもりが全然寒い。
風が体を芯から冷やしていく。

何か不吉なものを告げるかのように黒い雲に覆われた空。

手に爪が食い込むくらい強く拳を握って後戻りはしないと心に決めて向かい風に押し戻されながらも陽の家の前にたどり着いた。

陽や陽の家族にはお世話になっているとはいえ、いつになっても人の家のインターホンを鳴らすのには緊張する。

「はい」
「あ、の。谷古宇、です」

出たのが誰かわからなくて咄嗟に苗字を名乗った。
少し待っててと言われ、インターホンの前でまだドクドクいっている心臓を落ち着かせながら待つ。
玄関を開けてくれたのは陽のお母さん。
家で話すのならご家族のいない間かと思っていたから表情に出さないように努めたけれど、多少驚いた。

「槭ちゃん、いらっしゃい」
「ご無沙汰して、おります」
「こちらこそ、ご無沙汰しております。そんな言葉、よく覚えてるわね。槭ちゃん、良い大人になれそう」
「そんな……滅相も、ありません」

目上の人への敬語を使う機会があまりない私はうまく使えていることを願って会話をしながら家の中へ案内された。

「陽太は部屋にいるからちょっと呼んでくるわね」

リビングに残された私は座っててと言われた椅子の上で固まる。
人の家に上がらせてもらうのが久しぶりでまだ緊張が解けない。

「槭、お待たせ」

二階から下りてきた陽は特に変わった様子はなく、緊張している私が馬鹿みたい。
そう思うとふっと全身の力が抜けて自然と表情筋が緩む。