「槭も辛かったよな。真正面から悪口言われて。俺も言われたことあるから何となく気持ちはわかる。こたえるんだよな、意外と。二人とも近づいていいのかわからない状態で辛さ抱えて、よく頑張ったな」

陽はこの場にいない里緒奈のことまで褒めた。
届かないのに。
意味のない褒めなのに。
言葉に出した。

「もし仮に、槭が他人の人間関係を邪魔するとして、相手が関係を切ろうとするのであればそれは槭に必要のない関係性だったんだって思えばいいんだよ。それって相手は槭を必要としなかったわけだろ。槭を必要としない奴が関係を切ろうっていうなら躊躇わず切ってやればいい。切らずにいてもお互い何もいいことない」

例えば誰かが、私を邪魔だと思っていたとして。
その子が他の子との関係に支障が出る状態でも私との関係を続けるか。
それとも、私を切って他の子との関係を優先するか。

私が切られればを、それは相手の子にとって私は関わる必要のない存在。

無理に私から関わり続けようとしたってお互い辛いだけだ。

「そりゃあ、大人になれば関わりたくなくても関わらなきゃいけない人だって出てくるだろうけど今はそれでいいんだよ。何も不安に思わず槭を必要としてくれる人と槭のペースで関わればいい。里緒奈とだって」

生まれて一年で、私はありのままの私を受け入れてくれる人たちに出会った。

大切な人たちとの大切な出会い。
この上ない幸運だろう。

自分から距離を置いといて自己中心的だけど、里緒奈がもしも、今も私を必要としてくれるのなら私は関係が戻ってほしいと思ってる。

ただ、確認をとるのはもっと先の話になってしまうだろう。
それでも少しの勇気があれば意外と人は進めるものだ。
いつか会える日を願って、メールを送ろう。
いきなり表情も見えないメールや電話で確認するなんてお互いの状況を縮めるにはよくないから、私と里緒奈のペースでゆっくり。

「先を考えたくなるし、実際考えなくちゃいけない時もある。でも、考えすぎもよくないよな。自信だったりやる気だったり、生きるのに必要なものがなくなることもあるから。一番大事なのは今をどう生きるかだと、俺は思うよ。槭が今のままでいるのか。変わるのかは槭次第だ」

幸運によって出会えた人達。
十四年間の人生の中で何度も助けられた。
そして、その一人が目の前にいる。

さらには私に一つではなく複数の選択肢までくれるのだ。
こんないい人と出会えた私はもっと周りを見るべきだったのかもしれない。

「うん……ありがとう、陽」

私は元々持っている"自分から変わる勇気"は小さい。
でも、今は陽に希望をもらった。
私にとってすごく大きく、輝く希望を。

その希望を抱いて、考えていきたい。
ゆっくり、じっくり、私らしく。

「頑張れ、槭」

また頭を撫でて、陽はそう言った。

「話戻るけど花観先輩のこと、槭は何も心配しなくて大丈夫」
「……もしものことが、あったらわた、し何でもするから。一人で戦わない、でね」
「ん、ありがとう」

風の吹かなくなった静かな公園で(はる)の笑顔は差し込む()の光に負けず劣らず輝いて見えた。