陽になら、言える。
根拠はない。
でも、この人なら、大丈夫な気がした。
「川原里緒奈って覚えてる?」
「……うん。小学校、途中まで一緒だったよな」
「私、は里緒奈のこと、親友だと思ってた」
陽はそれ以降、何も言わずただ頷いて相槌を打つだけ。
急かしたり否定されたり、そういうことはしない。
ゆっくり私のペースで、私の言葉で伝えられた。
リオナに言われたこと。
それが原因で人と関わるのが怖くなったこと。
幼馴染は先へ進み、私だけ取り残されているような、あの感覚は言わなかった。
陽だって幼馴染の一人だから、そこまで言う勇気はなかった。
話し終わった後の短い沈黙の中、少し強い風が髪を撫でた。
「……俺もさ」
陽が少し距離のある場所に立っている木を見ながら口を開く。
「親友がいるんだよ。大栄高雅って奴」
「熊本にいる、よね」
大栄高雅。
幼馴染のうちの一人で小学一年生の冬くらいに親の都合で転校して、今は熊本の学校に通っていると聞いている。
「そう。小一まで一緒だったのにな。友達の前であんなに泣いたの初めてだった」
「陽も泣くんだ」
「泣くわ。事前に伝えられてたのに保育園にいた時のこと思い出して止まらなかったわ」
意外と泣き虫な一面もあるんだな。
私は幼馴染が離れるとき、決まってそばにいなかった。
学校のお別れ会も。
親が仲の良い関係で個人的に見送りをするとなった時も、熱が出たり祖父母が家に来ていて離してくれなかったり。
大切な人の見送りで泣けるのは少し羨ましかった。
「その悪い方のリオナの言ってることが全部じゃ、ないだろ?」
「多分。二人が何を話して、いたのか私は知らない、から何とも、言えないけど」
「そんな確証のない言葉に翻弄されるな」
ほんの少し、怒りの混ざった声が降ってきた。
立った陽が私の前に来て、髪がぼさぼさになるのなんてお構いなしに頭を撫でる。
「陽?」
「親友はそう簡単に変わらない。ずっと近くにいてほしいと俺は思うから、その親友がそばにいないのは辛い。そばにいるのに話せないのも辛い。普通の友達だって親友には劣っても何も言わず離れていったら悲しいよ。里緒奈にとって、たとえ槭が普通の友達になっていたとしても同じだ。きっと、槭が思ってるよりも悲しかった」
「そうなのかな」
里緒奈は悲しいと思っていてくれてたのかな。
距離を置き始めてから、里緒奈からも何か聞いてくる様子はなかった。
そんな里緒奈を思い出したら、陽の言葉を完全に信じることはできない気がする。
「……俺から見た二人だけどさ」
「うん」
「里緒奈にとって槭は誰よりも大切な人だと思う」
何も言えなかった。
そんなわけないと否定もできなかったし、そうだねとも勿論言えない。
黙り込んだ私に陽は言葉を続ける。
「里緒奈が槭を見る目、確実に他の人を見るものとは違うんだよ。こんな例えもなんだけど、母親が子どもを見るような……愛の籠った眼差しというか」
愛の籠った眼差し。
里緒奈が私に?
向けられていた私は全く分からなかった。
言われてみれば里緒奈の目はいつも優しかった気もする。
「ただの友達に向けるにしてはちょっと過剰だと思うような。本当に槭のことが好きなんだって視線でわかるってああいうことなんだって思った。周りが分かるくらい里緒奈は槭を想ってるんだ」
「でも」と陽は続けた。
根拠はない。
でも、この人なら、大丈夫な気がした。
「川原里緒奈って覚えてる?」
「……うん。小学校、途中まで一緒だったよな」
「私、は里緒奈のこと、親友だと思ってた」
陽はそれ以降、何も言わずただ頷いて相槌を打つだけ。
急かしたり否定されたり、そういうことはしない。
ゆっくり私のペースで、私の言葉で伝えられた。
リオナに言われたこと。
それが原因で人と関わるのが怖くなったこと。
幼馴染は先へ進み、私だけ取り残されているような、あの感覚は言わなかった。
陽だって幼馴染の一人だから、そこまで言う勇気はなかった。
話し終わった後の短い沈黙の中、少し強い風が髪を撫でた。
「……俺もさ」
陽が少し距離のある場所に立っている木を見ながら口を開く。
「親友がいるんだよ。大栄高雅って奴」
「熊本にいる、よね」
大栄高雅。
幼馴染のうちの一人で小学一年生の冬くらいに親の都合で転校して、今は熊本の学校に通っていると聞いている。
「そう。小一まで一緒だったのにな。友達の前であんなに泣いたの初めてだった」
「陽も泣くんだ」
「泣くわ。事前に伝えられてたのに保育園にいた時のこと思い出して止まらなかったわ」
意外と泣き虫な一面もあるんだな。
私は幼馴染が離れるとき、決まってそばにいなかった。
学校のお別れ会も。
親が仲の良い関係で個人的に見送りをするとなった時も、熱が出たり祖父母が家に来ていて離してくれなかったり。
大切な人の見送りで泣けるのは少し羨ましかった。
「その悪い方のリオナの言ってることが全部じゃ、ないだろ?」
「多分。二人が何を話して、いたのか私は知らない、から何とも、言えないけど」
「そんな確証のない言葉に翻弄されるな」
ほんの少し、怒りの混ざった声が降ってきた。
立った陽が私の前に来て、髪がぼさぼさになるのなんてお構いなしに頭を撫でる。
「陽?」
「親友はそう簡単に変わらない。ずっと近くにいてほしいと俺は思うから、その親友がそばにいないのは辛い。そばにいるのに話せないのも辛い。普通の友達だって親友には劣っても何も言わず離れていったら悲しいよ。里緒奈にとって、たとえ槭が普通の友達になっていたとしても同じだ。きっと、槭が思ってるよりも悲しかった」
「そうなのかな」
里緒奈は悲しいと思っていてくれてたのかな。
距離を置き始めてから、里緒奈からも何か聞いてくる様子はなかった。
そんな里緒奈を思い出したら、陽の言葉を完全に信じることはできない気がする。
「……俺から見た二人だけどさ」
「うん」
「里緒奈にとって槭は誰よりも大切な人だと思う」
何も言えなかった。
そんなわけないと否定もできなかったし、そうだねとも勿論言えない。
黙り込んだ私に陽は言葉を続ける。
「里緒奈が槭を見る目、確実に他の人を見るものとは違うんだよ。こんな例えもなんだけど、母親が子どもを見るような……愛の籠った眼差しというか」
愛の籠った眼差し。
里緒奈が私に?
向けられていた私は全く分からなかった。
言われてみれば里緒奈の目はいつも優しかった気もする。
「ただの友達に向けるにしてはちょっと過剰だと思うような。本当に槭のことが好きなんだって視線でわかるってああいうことなんだって思った。周りが分かるくらい里緒奈は槭を想ってるんだ」
「でも」と陽は続けた。