強い当たりをした相羽さんの態度を見るに、花観さんは自分の意思で着いてきていた。
だとするなら、相羽さんへの強い感情があってもおかしくないかもしれない。
それが発展して相羽さんを泣かせた私や陽へ矛先が向くことだって無きにしも非ず。
そうなった時に一番の被害を受けるのは同じ学校に通う陽という可能性もある。

「やられたら、それ相応のやり方で反抗させてもらうから」

強気だと思っていると「あ、そうだ」と何かを思い出したような声を出した。

「相羽先輩にさ、俺との関係だっけ。何で言わなかったんだ?」

死角からの矢が突き刺さる。
今それを聞かれるとは思わなかった。

「言ってたじゃん。俺との関係を聞かれたって。もしかしてさ……俺って友達とも思われてない?」
「ち、違う!」

思ったよりも大きい声が出て陽も驚いたし、私自身も驚く。

「そうじゃ、ない」
「なら、友達って言えばよかったじゃん」

誰にも言ってこなかったリオナのこと。
今、陽に言ったほうがいいんだろうか。

私なりに考えたことが全ての人に共感されるわけじゃない。
そんなことでって言われたらどうしよう。

陽なら「そんなことない。もっと突っ込め」とか言うかな。
そうすることができないんだってわかってくれるかな。
この恐怖を理解してくれるかな。

一つ話をするだけなのに、その内容がどう捉えられるのかを考えただけで言葉が出なくなる。

「槭」

陽が何も言わない私を呼んだ。

「また、顔色悪くなってる」

心配そうな顔をしたまま私の手を握る。

「そんなんになってまで言わなくていい」
「え……」
「見てて思ったんだけどさ、今は顔色悪いのもあるけど、槭は色んなこと考えるときに表情暗くなるんだよな。不安というか、どこにも心を置く場所がなくて焦ってるみたいに見える」

間違ってはいない。
確かに常に心を置き休める場所がなくて、焦っているのは否めない。

ただ、そんなにわかりやすいだろうか。
顔色が悪くなる以外にもそんな表情に出ていたとは、自分では気付かなかったことばかりだった。

「言いたくないならいいんだ。無理して言おうとしなくていい」

陽が向ける真っすぐな眼差しを見て、私は自分が恥ずかしくなった。

ああ、そうだ。
陽が理解をしてくれないかもなんて考えなくてよかった。
だって、こんなに私のことを考えてくれている。
心配する必要はない。