人として生きられるようになれればいいのに、私にとって変わることはすごく、難しい。

周りが日に日に変わっていく様子を見て『あの人はあんなだったのに別人みたい』と思う度に変わることは良いとは言えないような気がした。

性格の悪かった人が何かによってとても優しい人になってればいいことのようにも捉えられる。
でも、本当に彼、彼女らは辛くないのだろうか。
好かれようと自分を押し込んだりしていないのだろうか。

そうやって、無理矢理に自分を変えて……辛くないはずがない。

変わったようでいても、どこかで大切な自分を押し殺してる。
押し殺された自分だって大切な自分なのに、気がつけないままいつの間にか失っていたり。
変化は何かを代償にだってするんだ。
変わるってそういうことだと思う。
……もしかしたら、そうだと思いたいだけなのかもしれないが。

ただ、私が偽ったところで根本的な、奥底にある"話せない"という理由の解決にはならない。

十分休みを告げるチャイムを聞き、号令をしてから倒れるように机に伏せる。
席から立ち上がり、それぞれ話すクラスメイトの会話が耳に入ってきた。
あるユーチューバーの動画がどうだったとか今日遊べないかと約束をする言葉。
今まさに終わった授業の解説を求む声。

私も彼らのように話せたらこんな心配しなくていいのに。

言葉がでないのなら手話を使う?
顔や手が勝手に動いてしまうのは常に押さえていればいい?
息が上手くできなくなるのなら単語の途中で息を吸えばどうにかなる?

解決策があることにはあっても変な目で見られ、自分からではなく相手から距離を置かれる可能性がある。
それは自分を犠牲にしてまで話すことができようと、意味がない。
話せない原因をどうにかしても話す相手がいなければ何も残らない。

「得意不得意があるのだから無理せず自分のペースで」とはよく言ったものだ。
その得意不得意を、自分のペースとやらを受け入れてくれない社会で無理せずなんて……。

どうすればいいのか、わからない。

「はぁ……」

盛大な溜息をついてこんな時は気分転換がてら放課後に好きな場所に行こうと決めた。


放課後。

制服のままではいけないので一度家に帰って着替える。

私の家は学校から十五分ほどのマンション。
両親と妹、兄と住んでいる。

部屋で最低限の物を鞄に入れながら家を出る前にカーテンを閉めようと窓の前に立つ。
まだまだ青い空が広がる空を見上げてカーテンを閉め、ちゃんと鍵をかけてからマンションを出た。

ここから二十分ほどの場所にある区役所に隣接する図書館。
私の好きが詰まっている場所に今から向かう。

本好きの私にとって図書館はまさに天国だ。
あの本特有の匂いや気になる本、好きな本を宝探しのように探し、本棚を行き来する時間も堪らない。

マンションの上に妹と共用の部屋では大きい本棚も置けない。
置けたとしても家では絶対に出せない匂いが一番好き。

急坂を登ったり、あまり景色の変わらない長い道を歩くことにはなるが、それでも行かない選択肢は無い。
何よりも図書館の魅力はあんなにも沢山ある本のほとんどを借りて、家でも読めること。
もっと家が近ければ毎日のように通ってもおかしくはないほどに幸せな空間だ。

そして、その空間への入り口である自動ドアを通る。
人がいるのに紙の捲る音しか聞こえない静かすぎる光景が広がっていた。

私はよく座る自分好みの席まで移動して近くにある本棚から気になっていた一冊の小説を引き出す。

今日読むのは学校に生えている一本の桜の木が見てきた出会いと別れの話。