「そうだな。綺麗だよな、桜と槭」
「え、うん。なんで顔、覆ってるの?」
「なんでもない」

虫でもいたんだろうか。
当てたせいで少しだけおでこが赤くなってる。

「次は、ゲーセンとか?」
「うん。ゲームセンター、私初めて」

少し歩いたところにあるゲームセンターには普段を知らないから何とも言えないが、大人が多かった。

「鮫のぬいぐるみ、ある」
「鮫好きなの?」
「海洋生物は大体、好き。かっこいい」

また顔を覆って「やってみるか」と言う陽。
本当にどうしたんだろう。
そんなに虫がいるのかな。

結果、鮫のぬいぐるみを手に入れた。

「もふもふ……!」

陽の取ってくれた鮫に顔をうずくめる。
ふわふわで心地いい。

「やったな」

頷いてお礼を言うと私の頭に手を置いて「ん」と言った。

ゲームセンターを出るとちょうどお昼ご飯の時間になるのでフードコートに行くことになった。

ただ、問題があった。
人が多くてご飯が食べられないとかではなく、私自身に問題が。

人に酔ってしまったのだ。
元々人に酔いやすいとはいえ、平日で人もそこまで多くないだろうと油断していた。

陽に引っ張られている手も、もう片方のぬいぐるみを持っている手も上手く力が入らない。
気持ち悪いとしか考えられなかった。

「……えで。槭!」

無意識に足が止まっていた私を困った顔をした陽がじっと見ていた。

「何度か呼びかけてたのに反応しないからビビった。大丈夫か?」
「…うん。大丈夫」

陽を心配させないよう無理矢理笑ってみたけれど、逆効果だった。

「大丈夫じゃないな。ちょっと休むか」
「だ、大丈夫!」
「どこがだ。槭、一緒にいるとたまにすげぇ顔色悪くなるし、無理すんな」

そんなこと初めて言われた。
陽と一緒にいるときが一番体調が良かったと思うし、学校で気持ち悪くなったことなんて熱が出た時くらい。
でも、陽といる時が一番体調が良くても時々顔色が悪くなるということは普段はどうなんだろう。
気持ち悪くなくても、知らぬ間に気分の悪い状態が基本になっているとしたら。

「あ……」

社会の授業に怒られて目を覚ますために顔を洗いにいったあの時、何故か『大丈夫?』と聞かれた。
あれってもしかして、私の顔色が悪かったからだった……?

「槭、やっぱり休もう。まだ時間はあるからさ」
「ごめん……」
「謝んなって。そういっても休める場所あるかな」

陽はスマホを取り出して地図を見せる。

「槭、少し歩けるか?近くに公園がある」
「大丈夫」