「手。はぐれたり人にぶつかりそうになったら引っ張るから」

平然とした顔の陽。
なんでそんな普通でいられるんだろう。
私は心臓がバクバクいってるのに。
やはり経験があるんだろうか。

できる限り心臓を落ちつけて陽の手に自分の手を重ねる。
陽は私の手を握ってエレベーターへ進む。

手汗、ひどい気がする。
昨日も手は繋いでたのになんで今日はこんなに緊張してるの?
周りに人がいるから?

本屋に着いても心臓がまだバクバクして陽へのドキドキが血を巡らせる。
さっきよりも早く。
体中に甘い感覚が回る。

「槭、オススメの本どこにある?」

入ってすぐの書店員おすすめコーナーをサラッと見て案内に従い、二階にある文庫本コーナーに陽を引っ張った。

「これ」

陽に見せたのは図書館で陽に会ったあの日に借りた"世界の終わり"。
夜空に男女のシルエットが描かれた表紙。
シンプルでいて惹かれるタイトル。

随分前に読み終わって返却をしたが、好きな時に読めるようにしたいからと結局購入した。
初見で何度か泣いてしまった感動する話だ。
私達の世代というより大学生、社会人向けの内容でもスラスラ読める文章で止まらなくなる。
小説を読み始めたばかりの人にこそオススメするべき本。

「綺麗な表紙だな」
「表情が分からないって、いうのもいいよね。読んでみると分かる、けどこのシーンを想像するの、楽しい」
「つーことは表紙の場面がどっかで出てくるってことか。面白そうだ」

つりで魚がかかったような当たりを感じた。
会話で陽がこの本に食いつく感覚が。

「俺、この本買う。槭は?」
「もう選んだ」
「何その分厚い本」

"世界の終わり"を探している間に見つけて今、私の手にある分厚い本を見て陽が驚いている。

「本屋大賞とった小説」
「本屋大賞って全国の書店員が選んだ一番売りたい本だっけ?毎年どっかで聞く」
「すごく面白い、らしい。ちょっと値段張って、も文句なし」

その他にもそれぞれ一冊選んで会計を済ませた。

会計は別なので離していた手を本屋を出るなり、陽は自然と繋ぐ。

ここならお互いの学校の生徒がいてもおかしくない。
陽は誤解されても構わないのかな。
好きな人だっているかもしれないのに、恋人だって勘違いされたら…。

慣れてきた陽の手の温もりから逃げたほうがいいのかもしれない。

「次、文房具や行くか」
「陽」

こういうことは聞かないのが得策なんだろうけど、思い切って声をかけた。

「手、繋いでていいの?陽は……好きな、人いないの?」
「は……」

最後に疑問符がつきそうなところで言葉が止められた。