「本、見に行ってもいい?」
「いいな、本屋。俺的にもちょうどいいわ。槭のオススメの本教えてくんない?」
「趣向、あうかわからない」
「最近、小説読むようになったばっかりだから色んなジャンルに触れるときだし、思いっきり押し付けて。俺、映画のあとみたいに読んだ感想とかも言い合ってみたいんだよ」

嫌がられる光景が浮かんで躊躇ったが、その心配はなさそうだ。

家族の中でお母さん以外は小説は読まないタイプ。
唯一話の通じるお母さんも仕事が忙しくて小説を読む時間がない。
言うまでもなく、家族以外でそういった話をできる人はいない。
私の好きなものを話せる機会が少なかった。
それだというのに、今日は話ができる上にオススメまでできるなんて……久しぶりに小説について話せる嬉しさに頬が緩む。

その様子が見られていて、陽にはまた笑われた。

「笑い堪えなくていいって。そんなに嬉しいのかよ」
「嬉しいよ。本の話、するの楽しみ」

読み終わったら図書館で感想言い合おうとか、陽は文房具を買うのと好きなカフェの新作フラペチーノが飲みたいとか。
ゲームセンターに行きたい。
陽のお姉さん、千夏さんから駅前のドーナツ屋で期間限定のドーナツを買ってと言われた。
昼食はフードコートで済まさないか。
何時まで遊んでいられるか。

そんな他愛もないことを話しながらそれらが全て行える、バスで二十分ほどの駅前のショッピングモールに向かった。

普段はお父さんの日曜日のお休みに車で横浜のショッピングモールに行く私。
ここに来るのは多分、小学生までやっていた書道の展覧会以来。
少しだけお店が変わっていて始めてきた場所みたいに新鮮に感じる。

「本屋は……五階か」
「陽、あれ何?」
「知らないの?ロールアイス。アイスを平べったくして巻いてんの」
「へぇー」

シナモンロール専門店やレモンジュース専門店。
沢山の洋服屋。
ガチャガチャコーナー。
手芸用品店。

本当に色んなお店があってキョロキョロしてしまう。

「楓、ちゃんと前向いて歩いて」
「あ、ごめん」

知らぬ間に止まっていた陽に気付かず、ぶつかってしまい怒られた。

「店見てるのはいいけどさ。ん」

差し出してきた手を見て首を傾げる。
『ん』だけじゃ何もわからない。