「も、ちろんっ」

勢いのまま返事をするとこっちを向いた陽に思いっきり笑われた。

「昼食も一緒に食べる?」
「う、うん」
「了解。明日の十時に迎えにいくな」

いつの間にか家のすぐそばまで来ていて、陽はそっと手を離す。

「また明日」

まだ手に残る陽の体温に名残惜しさを感じるのに自然な笑顔を浮かべられたのは明日の約束の効力としか思えない。

「またね」

両親は買い物、兄妹は友達と遊びに行っているせいでまだ誰も帰っていない静かな家。
入るなり、フワフワした変な感覚が襲って手洗いうがいをしたらソファにダイブ。
どうにか立っても足元が覚束ず、片付けは諦めた

それよりも、休日に遊ぼうと誘われたのはいつぶりだろう。
何より二人で行くのかということ。
これは上手くできた夢だったりしないだろうか。

頬を抓り、叩いてみるがしっかり痛みを感じる。
夢なんかじゃない。

「幸せすぎて怖いんだよね……」

幸せが永遠に続かないことは重々承知。
だからこそ、この後に襲う不幸が今までにないくらい大きく思えてしまいそうで。
それだったらもう醒めてもいい気がする。
次の不幸に心身が持たなくなる前に。

「たっだいまー!」

家中に声を響き渡らせながら遊びから帰ってきた妹、愛生は廊下を走ってリビングに来るなりコップ一杯の水を飲んで「友達の家行ってくる!」と「近所迷惑だからもっと静かに帰ってきて」と言う隙も与えず嵐のように去っていった。
ソファで傍から見ればぐったりしている姉を無視して。

体感二十分ほど動かずにいると瞼が重く、あっさり眠ってしまった。
起きた頃には両親が帰って片付けしなきゃと勢いよく起き上がったら「びっくりしたぁ!?」とこれまた愛生に負けず劣らずの声量で耳がおかしくなるかと思った。

寝てしまったからか、興奮して目が覚めているのか。
夜は寝付けない上に深夜に何度目が覚めたことか。

寝付けない間、寝やすい体勢を探しながら明日の洋服について考えた。
どこに行くかもわからないし、ズボンがいいだろう。
持っているのはシンプルな服ばかりだし、ズボンの中に服を入れてベルトを目立たせたら多少はマシになるか。

洋服はある程度想像したところで、ふとこういう時オシャレな女の子はお化粧もどんな風にするか考えるんだろうなと思った。