ほぼ同じタイミングでカラーコーンゾーンに入った二人の子が先に行く中、同じ列に二人も入っていいのか。
詰まってしまって前の子を焦らせてしまうのではないか。
そもそも私が前に行ったら後ろの子を足止めして苛立たせてしまうのではないか。
悶々と数秒の間考えながら近くにいた教師に「谷古宇さん、早く行って!」と叫ばれてようやく動けた。

そのあとの競技でも鉢巻を落としてこのままにしていたら次の走者の邪魔になると拾いに行ってしまったり。
競技内で神経を擦り減らした。

「コーンが二列、しかないの、びっくりして固まった」
「槭のこと知らないはずの『保護者もあの子大丈夫?』って囁いてた。あんなの突っ込めばいいんだ」
「なんか走ることより、もあのコーンを回る方が難し、かった。何周回ったのかわからなく、なったし見られてるの、怖い」

競技に出ている間はずっと震えていたくらい、視線が怖かった。
特に運動ができない人は目立つ。
たまに陰で笑われる。

見られたくないのに能力的にすぐにはどうにもできない運動神経のせいで目立って見られる。
今度こそは上手くやるんだって思えば思うほど体が力んで上手くいかない。
それの繰り返しだ。

「陽は私と違う、意味で目立ってたね」

陽は真逆の理由で注目の的だった。
主な原因は運動の出来すぎ。
顔もいいのに運動までできるときたら、相羽さんを見て確信したけどモテモテに違いない。

「目立ってた?どちらかというと櫻井とかの方が……」

「いや、稲葉か?」とブツブツ言っている陽に聞こう。
櫻井と稲葉って誰?
他校の生徒の名前を出されても、ちんぷんかんぷんだ。

首を傾げる私に気がついた陽は「あ、槭は知らない奴だったわ」と話を切る。

「ま、俺以外にも目立ってた奴はいたってこと」
「そう、かな?」

もしかしたら、私が陽を見すぎていたのかもしれない。
あまり意識しすぎると陽にバレるから、顔が熱くなるのを無視して続けた。

「遅くなった、けど体育祭お疲れ様」
「……槭も、お疲れ様」

繋いでいた手をより強く、でも痛くない優しさで包まれる。

「もし、良かったらさ」

今は少し先を行く陽の表情が見えない。

「振替休日、どっか行かない?」

昨日、土曜日にあった陽の体育祭。
今日、日曜日にあった私の体育祭。
お互いの学校は明日の月曜日が体育祭振替休日となっている。

熱かった顔が興奮でさらに熱くなるのを感じる。