また謝罪が出そうになるのをぐっと飲みこむ。
ただ、真っすぐな視線から逃れるため目を逸らした。

「目、逸らさない」

頬に添えられた陽の手によって目線があう。

「謝ることも大切だ。でも、今のは槭の憶測に過ぎない。だって俺は別に嫌じゃなかったし、嬉しいくらいだったから。憶測で謝ったってお互い良いことない。俺は謝るところじゃないだろってモヤっとした。色々考えて責任感の強い槭もいいけど、時にはまぁいいかって軽く受け流せる槭も持っておかないと、いつかおかしくなるぞ」

"軽く受け流せる槭"。
でも、ちゃんと聞いて言葉を返してあげないと可哀想じゃない?
拾われなかった言葉を見ないふりはできない。
意味がある言葉たちを捨てられない。

「言葉を返すってことは人の話を聞いてる証拠だ。ただ、そうだろうって予測に振り回されて、自分の言動に責任を持ちすぎて、それで壊れるのは違う。肩肘張らなくてもいいんだよ。もっと気楽に生きなきゃ辛いだけの人生だ。俺は楓にそんな人生送ってほしくない」

陽は真面目な顔を崩して人を惹きつける笑顔を浮かべる。

「槭はもっと自分を大切にするんだよ」

陽は見えない言葉を表情で、雰囲気で語っていた。
もっと力を抜いていい、と。

陽のくれた言葉に何も返せず、力なく頷くのが精一杯で。
そんな私の手を掴んでぶんぶん縦に振ってまた陽は笑った。

「帰るか」

陽は手を離さない。
振り払うこともできずにそのまま隣を歩きながら、こっそり見ていたという体育祭の話をした。

「槭、運動できないんだな」
「逆にできると、思う?」
「できなさそうだなぁとは思ってた。四種競技は運動できる出来ないの問題じゃなかったけど」

私は四種競技、二人三脚、表現(ダンス)、学年種目しか出なかった。
一応点数のつく体育祭は総合優勝を狙う人が学年が上がるごとに増えていく傾向にある。
足手まといにならないための少ない競技選択だ。

その中でも四種競技では運動以前の問題で最下位になってしまった。
ルールは事前に説明されていたし、そう難しいものでもなかった。

しかし、終盤にある縦に三つ並んだカラーコーンを八の字に一周する単純な競技で私は戸惑った。
走者は四人というのにカラーコーンが二列しかなかったのだ。
第一走者目であった私は手前の競技に必死で気がつかず。