私の体育祭は何事もなく「体育祭は家に帰るまでが体育祭です」という体育祭実行委員長の言葉によって締めくくられた。

日曜日で家族がお休みだった人も多くてそれなりに人が集まり、それなりに盛り上がって終わった体育祭の余韻に浸る暇もなく後片付けにおわれる。
部活に所属せず、委員会にも入っていないのについ最近怒られた社会の教師に「授業を聞かない人はこういうところで人と話して経験を積みなさい」なんてよくわからない理由で半ば押し付けられた片付け。
競技で使った重い道具を持ちながらせっせと動く教師や生徒を見習って何度体育倉庫と校庭を行き来した事か。
普段、あまり運動をしない私にとっては持久走をやらされている感覚だ。

「終わった……」

全ての片づけが終わると元の姿に戻った校庭が寂しく見えた。

烏や鳩の鳴き声がどこからか聞こえてくる帰り道。
とぼとぼと歩きながらも思ったより疲れのない体。

行事は色んな人の顔が見れて、みんな楽しそうに笑っているのを見ているとつられて私も楽しくなる。
その分、終わってしまうとそんな景色もすぐに記憶になってしまう。
楽しい時間は寂しい余韻を残していく。

過去に、なっていく。

「槭」

ぼんやり歩いていたせいで前にいた人に気がつかなかった。
幸い、知っている人だったからぶつかってしまいそうになったことへの申し訳なさはあっても、幾分か気が楽だ。

「陽……ごめん。ぶつかりそうに、なった」
「ちゃんと前見てないと危ないぞ」

大人みたいなお叱りよりずっと優しい口調で笑った。

「陽、なんでここに?」
「あのなぁ……。誰かさんが体育祭に誘ってくれなかったから文句言いに来たんだよ」

それって……私?
自意識過剰とは思われたくなくて、あえて聞き返さずにいると「槭の事なんですけど」とブスっとした顔で言った。

「誘った方が、良かった?」
「だって俺だけ恥ずかしいところ見せてるじゃん」
「恥ずかしくない。陽、かっこよかった」

ぽろっと出た本音は陽を固めてしまった。
何もそこまで驚くこともないと思うけど……。

「陽?」
「あのさ、そういうことサラッといわないほうがいいよ」

陽らしくない小さな声に次は私が固まる番だった。

好きでもない女の子に『かっこよかった』と言われても迷惑なだけだと少し考えればわかる。
それを、最近の私は自分の言葉に責任を持てない。
由々しき事態だ。

「ごめんなさい……」
「なんで?」
「嫌だった、よね。何も考えずに、言って……」
「俺、嫌だなんて言ってない」

はっきり、言い切る。
真っすぐな目。
気遣って嘘をついているわけじゃない。

「そうやってすぐに謝るなよ」