「……これは私見、ですが世間に強く、咎められることをしても、誰にでも言葉に、救われる権利はあると、思います。言葉は武器として人を、傷つけるだけ、ではなくて人を支える柱、にも傷を治癒する、薬にもなります。そして、意味の通じるその、言葉を発するのは同じ人間、です。言葉をかけてもらう機会、は平等とは言えません。出会いに恵まれ、なかったり、自分の信頼がなければ人は、寄りつかないから。でも、人生の始まりは一回きりじゃ、ないです。困ったときに言葉を、かけてもらえる人間に、なろうと思えば皆なれるんです」

新しいスタートをきるきっかけは簡単なものでいい。
結果がどうか、だ。

「相羽さんは現状、陽に咎められています。それでも、貴方の今抱いている、後悔が私を動かし、ました。被害者の言葉は響かない、かもしれないけれど、その後悔が貴方を、変えてくれることを。救いとは、いかなくても後悔が少し、軽くなることを、願ってあの言葉を言ったんです。相羽さんは言葉を、かけてもらえる人間、になろうとしているん、です」

何度か舌を噛んだこの痛みが相羽さんの少しでも変わるきっかけになったら痛みなんて本当にどこか吹っ飛んでいってしまう。

「……ありがとう」

ボロボロ泣きながら、けれどもどこかすっきりして見える顔でもう一度「ごめんなさい」と謝って相羽さんと花観さんはその場から離れていった。

見送るだけでは気が済まなくて、その背中にもう一度頭を下げた。
頭を上げるとポンッと頭に重みを感じ、隣に目をやると陽の左手がのっている。

「頑張ったな」

緊張や相羽さんに対しての恐怖やらが一気に解けていく。

「槭、あんな話せたんだ」
「私も、驚いてる。沢山話したの、久しぶり。呂律まわって、ないような気がするんだけど、ちゃんと、話せてる?」
「ちょっとだけ聞き取りにくい。まぁ支障ない程度」

怒っていた大人びた陽からいつもの陽に戻ってる。
ホッとした。

それと、陽が来てくれてよかったと心から思った。
先輩に色んなことを言えたのは紛れもなく陽が来てくれたから。
陽が言葉では私の非も伝えつつ、行動ではずっと庇ってくれていた。
だから、頑張れたんだ。

「陽、大人みたいだった」
「そうか?本当のちゃんとした大人からしたらまだまだ子どもだろ」

そんなことないと思う。

子どもだって、私達中学生だって知識に関しては劣っても大人と同じくらい色んなことを考えられる頭を持ってる。
政治が分からなくても、勉強ができなくても知らないことがあるからこそ固すぎない頭で物事を考えることができる。
色んなものを見過ぎた大人よりも柔らかい頭を持っているのが子どもだ。

その一人に陽も入るんだろう。

そよ風が陽の髪を乱していく。

「陽」
「ん?」
「帰ろう」
「……そうだな」

すっかり静かになった校庭の横を並んで歩きながら、珍しく会話をすることなく陽の家に着いた。
なんで話を切り出せなかったのか自分でもよくわからなくて。
お互い今日は疲れてしまったのかもしれないし、話す気力もなかったのかもしれない。

ただ、その沈黙に嫌な気はしなくて。
不思議と何か話さなければと焦る気持ちもなかった。
嵐の去った後のような優しくて、ゆったりとした時間だった。