陽の一言が口を開いた花観さんの動きを止め、まさに私を殴ろうとしていた相羽さんに限っては涙目だ。

「人の命を甘く見てるようなら、今すぐ自分の行いを省みろ」

同い年なはずなのに陽の言葉にはすごく重みがあって、私よりも長い時間生きてきた人みたいに見える。
まるで別人の顔をする陽。
また一種の怖さがじんわりと染み込む。

「っ……ご、ごめんなさい」

陽が来てから何も言わなかった相羽さんは謝りながら、とうとう泣き出してしまった。

「私、むしゃくしゃしてて、本当にそんな気なくてっ……」
「それがいけないってわかってんだよな」
「今、話聞いてよくわかったっ……ごめんなさいぃ」

地面に座り込んで目を覆う相羽さんは大人の女性とほぼ同じような背格好で私服なら中学生とは思えないほど大人びて見えてたけど、やっぱりまだ私と同じ子どもで知っておくべき大切なことの意味を深く理解していない。
大人に近づいていると思っていても、心はまだまだ未熟な子どもだったりするんだ。

「相羽さん」

涙を拭ってあげたい気持ちもあったが、近づくのは少し怖くて一歩進んだところで声をかける。

「私は、相羽さんがしっかり反省、して同じことをしないように、努めてくれるの、なら今日の怖い思いも吹き、飛びます。人生は壁に、ぶつかって悩んで失敗して、進む。きっとそんな、繰り返しなんです。今回の失敗も相羽さん、の進む糧に、なればそれでいい、です」

長いようで短い人生の中、壁はいくつ出てくるだろうか。
それらに全てぶつかっていけるだろうか。

きっとどこかで諦めてしまうこともあるだろう。
それでも、自分や周りの人が背中を押してくれる時がある。

失敗したときだってそうだ。
誰かが大丈夫だと声をかけてくれるからまた立ち直せる。

相羽さんの失敗に大丈夫だと声をかける人。
その一人に私もなれるだろうか。
相羽さんの失敗を、後悔だけで終わらせないように。

ハッとした様子の相羽さんの目に涙はない。
何かを、先にある希望を見つけたような。
そんな目をしている気がしたのは気のせいでは無いと思いたい。

「私、そんな風に言ってもらえる人間じゃない」

ボソッと希望の中に絶望が滲んだ。